2015.05.08

vol.143 健康診断結果の"読み方"

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Vol.143 健康診断結果の

健康診断を"受けている人"と"受けていない人"とでは、「虚血性心疾患の発症率」「脳卒中の発症率」「全体の死亡率」に差が見られないという欧州の研究結果が2014年に発表され※、話題になったことがあります。自分の健康状態を知り、隠れた病気の早期発見に結びつくはずの健康診断が、実は役に立たないの? そんな疑問を持つ人もいるでしょう。しかし、そんなことはありません。健康診断結果をちゃんと読み解くことで、わかってくることがあるのです。そのポイントをお伝えします。

※BMJ 2014 9;348:g3617

健康診断は意味がない? それは誤解です

デンマークで行われた健康診断に関する調査結果が2014年に発表されました。1999年から10年にわたり、30~60歳の成人を「健康診断を受けるグループ (1万1629人)」と「健康診断を受けないグループ (4万7987人)」に分けて追跡調査を行ったものです。
健康診断を受けるグループは5年間に4回の健康診断を受け、さらに生活習慣に関するカウンセリング (禁煙やダイエット、運動など) が行われ、必要な場合は医療機関の紹介もされました。一方、健康診断を受けないグループは、どの検査も行われないというものです。そして開始から10年間の虚血性心疾患と脳卒中の発症率、死亡率をグループごとに比較したところ、両グループには虚血性心疾患と脳卒中の発症率に差はなく、死亡率にも差は見られなかったのです。
2012年に発表された論文※でも、健康診断を受けたグループと受けなかったグループとでは、全体の死亡率、心臓病、脳卒中、がんによる死亡率に違いがみられなかったといいます。これは欧米で健康診断の効果を調べた論文で、合計18万2880人のデータを解析したものです。

では健康診断に意味はないのでしょうか。そんなことはありません。検査した項目で「基準値以内だから」と安心してしまうことの方が問題なのです。また、基準値を超えていても「今は体調に問題がないから、来年の健康診断まで様子を見よう」と放置しておくのも考えものです。
基準値は、「健康だと思われる人を集めて、その95%が入る範囲」とされています。自分の数値が基準値以内だからといって、健康診断結果を無視している人はいないでしょうか。大切なのは、この数年で少しずつ基準値の上限に近づいてきていないか、あるいは急激に悪化していないか、などを見極めることです。最新の健康診断結果だけでなく、前年、あるいは数年前の結果と比較することで、より多くのことがわかってきます。
また、1つの数値にとらわれていないでしょうか。病気のリスクがあるかどうかは複数の指標で判断されますので、1つの数値が基準値以内だからといって、安心はできないのです。

それでは、どんな点に気をつければいいのでしょうか。いくつかの検査項目を例にお伝えしていきます。

※BMJ 2012;345:e7191

数値の意味を確認して、健康への意識を高めることが重要

血圧では、診察室で測定した場合は130/85mmHg未満が正常血圧、130-139/85-89mmHgが正常高値血圧とされており、140/90mmHg以上が高血圧とされています※1。この数値に対して、2014年に日本人間ドック学会と健康保険組合連合会が147/94mmHgまでを正常とする新基準を発表し、新聞や雑誌に取り上げられて賛否両論が巻き起こりました。ちなみに厚生労働省が2004年に新たなガイドラインを示す以前は、WHOや国際高血圧学会の分類法に従い「血圧の上の数値が150、160mmHg」が高血圧の基準とされていました。
もちろん「健康診断の基準値が厳しすぎる」という意見があるのも事実です。しかしここで注意したいのは、最も血管病死のリスクが低いとされているのが120/80mmHg未満であるということです。
また、160/90mmHg程度の状態が続くと、脳梗塞や心筋梗塞を起こすリスクが高まるといわれています。基準値の範囲(130/85mmHg未満)であっても血管疾患のリスクがないわけではなく、2004年以前の基準ではまったく安心できないのです。

血圧は通常、寝ている間は低く、早朝から目覚める時間にかけて上がり始めます。活動している昼間は特に高く、夕方になると下がっていきます。時間帯による変動以外では、カフェインの摂取や喫煙によって一時的に上昇するほか、精神的な緊張でも上がります。
また、医療機関で測ると、普段より血圧が高くなることがあります。高くなる度合いが極端な場合は「白衣高血圧」と呼ばれますが、病院に行っただけで極度に緊張してしまう人に多いようです。そこまで極端でなくても、医療機関で測定した場合より、家庭で測定したほうが低めになるのが普通です。
また、朝に血圧が上昇してしまう「早朝高血圧」というケースもあります。朝の血圧上昇が急激な場合や、夜の間に血圧があまり下がらず高いままの場合などの原因で、朝方の血圧が高くなってしまうのです。夜から早朝にかけて脳梗塞や心筋梗塞が起こりやすいのは、早朝高血圧が一因となっているともいわれています。
これらのケースに対応するためには、家庭で普段から定期的に血圧を測る習慣をつけておくことが理想です。

血圧は、1日に朝と晩の2回測定することが基本です。朝は、起きてトイレに行ったあと、朝食を摂る前に測ります。起床後1時間以内で、座ってから1~2分安静にしてから測定するのがいいでしょう。家庭で測定した場合は135/85mmHg以上が高血圧の目安となります。健康診断で血圧の基準値を超えて「要経過観察」となった場合などにも、家庭で測った血圧を記録して、医療機関を受診するときなどに役立てることが重要です。

一方、低血圧に関してはあまり心配する必要はありません。一般的には、低血圧で起きる重大な疾患はほとんどないからです。ちなみに、極端なダイエットによって、若い女性が低血圧になることがあります。無理なダイエットでやせすぎた人が自律神経失調症になったりして、低血圧になる場合です。特に、運動をしないで食事制限だけで行うようなダイエットはリスクが伴いますので、無理をしないようにしましょう。

血圧とは話が異なりますが、貧血には注意が必要です。赤血球の中にあるヘモグロビンには、酸素を運ぶ役割があります。赤血球が少なくなって、酸素を運ぶ能力が低下してしまった状態を貧血といいます。
貧血になると各臓器に届く酸素が少なくなり、酸欠状態になります。その状態に対応するために体は血液を速く回そうとして心臓が速く動き、動悸、息切れなどの症状が現れたり、立ちくらみが起きたりします。
赤血球数の基準値は、男性が400万~539万、女性が360万~489万(個/μl)で※2、300万以下の場合は貧血と考えられます。貧血となるのは血液疾患以外にも多くの原因が考えられますので、専門医を受診することをお勧めします。

※1 140mmHg=収縮期血圧=上の血圧/90mmHg=拡張期血圧=下の血圧。日本高血圧学会

※2 日本人間ドック学会

BMI=体格指数や腹囲の数値はどう考えればいいか

健康診断では、身長と体重からBMIを算出したり、腹囲を測定したりします。
BMIは体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算し、基準値は18.5~25未満です※1。
体重56kgで身長160cmの場合、
56÷1.6÷1.6≒21.88
となりますが、最も健康障害のリスクが少ないのは22とされています。
腹囲に関しては男性85cm未満、女性90cm未満が基準値です。

では、これらの数値を超えただけで問題となるのでしょうか。メタボリックシンドロームかどうかの診断は、これらの数値と血糖値、脂質、血圧の検査とを併せて行われます。BMIや腹囲が基準値を超えているからといって、必ずメタボと診断されるわけではありません。例えば体重が減少していても、その理由が筋肉量の減少であったら何にもなりません。また、骨盤を含めて腹囲を測定する日本の測定方法は理にかなっていないという意見もありますし、アメリカでは男性102cm、女性89cmが基準値となっていて、女性の基準値の方が低くなっているため、「日本の基準を見直すべき」という報告もあります。

フランス下院で、BMI18未満のファッションモデルの活動を禁止する法案が、2015年4月に可決されました。やせすぎのモデルを雇用したモデル事務所に罰金や禁固刑を科すというものです。フランスではスリムなモデルにあこがれて拒食症に陥る女性が多いから、というのが理由だそうです。
やせ過ぎが健康によくないというデータは、日本にもあります。40歳時のBMIを「18.5未満」(やせ)、「18.5~25未満」(普通体重)、「25以上30未満」(太り気味)、「30以上」(肥満)の4つに区分し、平均寿命を調査したデータでは、最も寿命が短いのが18.5未満のやせ型の人で、30以上の肥満の人より短いという結果が出たのです※2。ちなみに寿命が最も長かったのは25~30未満の太り気味。この結果は男女とも共通です。
日本の女性では18.5未満が12.3%。そのうち20歳代ではなんと21.5%、30歳代でも17.6%が18.5未満です※3。もちろん、肥満は生活習慣病のリスクが高まりますので注意が必要ですが、やせすぎも問題となりますので食事や生活習慣を改めることが重要です。

40歳時のBMI 平均寿命
25~30未満
(太り気味)
男性81.64歳
女性88.05歳
18.5~25未満
(標準体重)
男性79.94歳
女性87.97歳
30以上
(肥満)
男性79.41歳
女性86.02歳
18.5未満
(やせ)
男性74.54歳
女性81.79歳

※身長と体重を入力するだけで簡単にチェックできる「BMIによる肥満度チェック」

体脂肪率の数値は「推移」を気にしなければいけません。特に、体重は変わっていないのに体脂肪率が上昇している場合は、その分筋肉の量が減少していることが考えられ、生活習慣病に近づいてしまうリスクがあります。また、ダイエットを行う場合にも、体脂肪率の推移に気をつける必要があります。筋肉量が減ってしまうと基礎代謝も減少してしまうため、ダイエットの効果が表れにくいからです。日ごろから体重と同時に体脂肪率をチェックし、同時に運動不足や栄養不足を改める生活にしていきましょう。

※1 日本人間ドック学会

※2 厚生労働省研究班(研究代表者:東北大学辻一郎教授)調査による

※3 厚生労働省2013年国民健康・栄養調査

コレステロール値は善玉と悪玉の比率を重視

コレステロール値に関しては、LDLコレステロール値140mg/dl以上、HDLコレステロール値40mg/dl未満、中性脂肪値150mg/dl以上のいずれかだと、脂質異常症と判断されます※。2007年以前は総コレステロール値130~220mg/dlも基準とされていましたが、現在では「HDL(善玉)コレステロールが多い場合には問題ない」ということから、総コレステロール値ではなくLDLとHDL、中性脂肪によって判断されています。

また、最近ではLDLコレステロール値とHDLコレステロール値の比率が重視されています。
LDLコレステロール値÷HDLコレステロール値
で計算して、1.5以下の場合は血管内が健康、2.0以上は動脈硬化の心配があり、2.5を超える場合は脳梗塞や心筋梗塞のリスクがあると考えられます。
このことから考えると、LDLコレステロール値が基準値140mg/dl未満でも、HDLコレステロールが基準値の下限ぎりぎりの40mg/dlでは、血管内が健康に保たれているとはいえません。これも一つひとつの数値だけでなく、ほかの数値と併せて考えなければいけない例といえるでしょう。

※日本動脈硬化学会

γ-GTPとアルブミン

お酒の飲み過ぎで肝臓に障害が起こると高値になるため、中年男性の「天敵」ともいえるのがγ-GTPで、50U/l 以下が基準値とされています※。ところがお酒を全く飲まない人でも、非アルコール性脂肪肝や胆石などの病気によって、γ-GTPの数値が上がることがあり、近年注意が喚起されています。また、向精神薬などの薬によって上昇する場合もあります。
また、肝臓や腎臓の働きがわかるのがアルブミンです。基準値は4.0g/dl以上です※が、これより低いと「低栄養」とされます。現代の日本で「低栄養?」と疑問に思う人もいるでしょう。しかしダイエットや極端な偏食によって、栄養状態が悪くなっているケースがあるのです。たんぱく質を重視して摂取するなど、バランスのいい食事を心がけることが大切です。

※日本人間ドック学会

健康に対する意識を持ち続けることが重要

冒頭で述べた「健康診断を受けた人と受けていない人の間で病気のリスクや死亡率に差がなかった」ことに対して、研究者が説明を加えています。
それは、「健康診断以外の機会で患者を診た時に、医師が心臓病や脳卒中のリスクを調べて、助言、治療しているから」ではないかというものです。また「健康診断の結果、行われた治療が逆に健康に害を与えた」可能性もあるといいます。例えば健診で糖尿病と診断された人が治療を受けて、血糖値を下げ過ぎたり、薬の副作用があったりして、病気の発症や死亡が逆に増えたケースもあるのではないかという指摘もあります。

しかし何より重要なのは、自分の健康診断結果の「数値の意味」を考え、「健康に対する意識を持ち続けること」です。健康診断結果が「オールA」だったとしても、それは検査を受けた時点でのこと。基準値ギリギリの数値が並んでいたとしたら、近い将来、暗転するリスクがあるかもしれません。すぐに治療が必要な状態でなかったとしても、運動、栄養、休息のバランスを重視した生活に変えることで、健康により近づけます。また、普段から気になる項目を家庭で測定し自分で健康管理をすれば、健康に対する意識も高まります。病気になる前の段階で、自分でできることは実行する。そんな努力が大切です。

  • このコラムは、掲載日現在の内容となります。
    掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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