vol.164 発熱と咳に注意「大人のマイコプラズマ肺炎」

健康・医療トピックス

風邪と肺炎は、症状がよく似ています。どちらなのか区別がつかず、受診した方がいいのか迷ったことはありませんか。風邪のほとんどは、ウイルスが原因です。ひき始めから数日で症状はピークになり、約1週間で回復します。しかし、なかなかよくならないときは、別の疾患の可能性があります。発熱と長引く咳は、マイコプラズマ肺炎に要注意です。

vol.164 発熱と咳に注意「大人のマイコプラズマ肺炎」

40歳未満に多いマイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ」という病原菌による呼吸器感染症です。通年でみられ、冬に感染する人が増加します。過去には4年ごとに大流行し、感染者が増えたことから、オリンピック肺炎と呼ばれたこともあります。小児を中心に流行することが知られていますが、成人にも感染する呼吸器疾患です。
杏林大学医学部付属病院では、マイコプラズマ肺炎と診断された73症例(年齢37.4±17.9歳)について調査しています。これによると、受診した患者の6割以上は、40歳未満が占めていました。主な症状は、「発熱」が31%と最も多く、次いで「咳」が28%。この2つで全体の約6割になることがわかりました。
研究に携わった同大学医学部付属病院 呼吸器内科の倉井大輔講師は、「マイコプラズマ肺炎は、風邪や咳が治らないと紹介されて受診する患者さんが多いです。身体所見の診察では異常が診られないのに、レントゲン検査では、肺にはっきりと影が見えるということをしばしば経験します。成人では、比較的若くて元気な人がなりやすく、高齢者にはほとんどみられません。症状は抵抗力のある人の方が強く現れやすいとされ、肺炎に関わる他の細菌とは違う特徴があると思います」と話します。
肺炎の検査は、通常であれば痰から疑わしい菌を培養して原因を調べます。肺炎マイコプラズマは、細菌の中で最も小さい形状の病原菌といわれています。特殊な培地であれば培養はできますが、とても小さいため、通常用いる光学顕微鏡では、菌が見えないという特徴もあるそうです。

治療薬と耐性菌の問題

マイコプラズマ肺炎の治療には、抗菌薬の飲み薬が用いられます。子どもから大人までどの年齢層にも使える標準的な薬として推奨されているのは、マクロライド系の抗菌薬です。しかし、近年は、薬が効かない耐性菌の増加が指摘されています。治療には、問題がないのでしょうか。
「耐性菌の問題は、多くが小児です。お子さんでは治療に使えない薬があるため、そこが難点です。ただし、マイコプラズマ肺炎は自然に治ることも実は多く、重症化する人はあまりいません。発熱が続くなどマクロライド系の抗菌薬が効かなかった場合は、他の薬に変更します」(倉井講師)。
薬が効かない耐性菌の増加は、抗菌薬(抗生物質)を服用する患者側の不適切な使い方にも一因があるといわれています。自己判断で薬をやめたり、必要以上に長い期間使用したりすることは、避けたいものです。「途中でやめると病気が再燃する可能性があります。処方された抗菌薬は、医師に確認して適切に飲みきること。また、ここ数十年で新しい抗菌薬は、ほとんど開発されていません。既存の抗菌薬を守っていくためにも、不適切な使用は減らすことです」。

「口腔ケア」と「手洗い」が予防に有効

2017年現在、肺炎は日本人の死因の第3位。高齢化が進むにつれて、肺炎で亡くなる人が増えています。肺炎の重症化を防ごうと、65歳以上の高齢者には、肺炎球菌の予防接種が推奨されていますが、リスクを減らすためには「口腔ケア」と「手洗い」が重要と倉井講師は、助言します。「肺炎は、口の中にあるものが肺に吸い込まれて起こります。脳梗塞の後遺症などで飲み込みに支障のある人でも、口腔ケアで口の中をきれいにしていると肺炎のリスクを減らすことができます。また、肺炎の発症には、細菌とウイルスの両方が関与していることが、私たちの研究でもわかっています。ウイルスに汚染された手で目、鼻、口、喉などの粘膜に触れると、そこから侵入して感染します。ウイルス感染を減らすと二次的に起こる細菌感染も減らせる可能性があり、手洗いは感染予防に有効と考えられます」。
 冬は感染予防にマスクを着ける人も多いですが、着け方や扱い方によっては、かえって汚染の原因になるので注意が必要です。マスクと顔の間に隙間ができると、そこからウイルスや細菌が侵入します。着けるときは、隙間ができないようにします。また、マスクの外側には、ウイルスや細菌が付着しています。はずして捨てるときなどは、汚染された外側は手で触れないように気をつけましょう。

監修 杏林大学医学部付属病院 呼吸器内科 倉井 大輔先生

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