vol.36 油断できない大人のぜんそく(喘息)

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知っておきたい大人のぜんそく

ぜんそくは子どもの病気…そう思っていませんか。ところが、子どものぜんそく患者が人口の7%程度であるのに対し、大人(成人)も3~4%を占めています。
大人のぜんそくの場合、子どものころのぜんそくが再発するケースもありますが、大半は成人してからの急な発症です。とくに40歳を超えてからの発症が、半数以上を占めています(※1)。また軽症や中等症の人でも、生命にかかわる激しい発作を起こすこともあるので油断できません。
大人の場合、咳などの症状が続いていても、ぜんそくであることに気付かず、風邪薬などでしのいでいることが少なくありません。その結果、こじらせてしまうケースも目立っています。
ぜんそくについては近年の研究などから、原因や治療法など、従来とは大きく変わりつつあります。そこでまず、ぜんそくについて知っておきましょう。
ぜんそくの代表的な症状は、咳、呼吸時の喘鳴(ぜんめい)、痰、息切れ、息苦しさ(呼吸困難)などです。喘鳴というのは、呼吸のたびに気道がヒューヒュー、ゼーゼーと鳴る症状です。ぜんそくの特徴的な症状のひとつですが、実際には喘鳴がなく、咳だけが続くタイプもあるため、風邪や気管支炎などと間違えやすいのです。
ただ、風邪などの場合には、昼間でも咳が出ます。一方、ぜんそくの場合は、夜間とくに明け方ごろに激しい咳や息苦しさなどの発作がよくみられます。反対に昼間は、ケロッとしていることも少なくありません。
症状に加えて、こうした特徴がみられたら、ぜんそくの可能性を考え、早めに受診するようにしましょう(※2)。

(※1)日本アレルギー学会などの資料によります。なお治療技術の進歩により、ぜんそくで亡くなる人は減少傾向にありますが、それでも年間4000人以上に上ります。

(※2)ぜんそくと似た症状をみせる病気には、風邪、気管支炎のほか、肺気腫、気管支拡張症、アレルギー性肺疾患、うっ血性心不全などがあります。ぜんそくと思っていたら、ほかの病気ということもあるので、きちんと検査を受けることが大切です。

vol.36 油断できない大人のぜんそく(喘息)

ぜんそくの常識が変わった

ぜんそくは従来、気道が狭くなったり、過敏になることが原因で起こると考えられてきました。しかし最近は、もともとの原因は気道の炎症とされています。気道の炎症を繰り返すことで、ちょっとしたことで過敏になり、咳や痰が出やすくなります。また、気管支壁も厚くなり、気道が狭まりやすくなるのです。 ぜんそくの患者さんの気道には、肥満細胞や好酸球・リンパ球といった、炎症に関係する細胞などがたくさんみられます。
肥満細胞がぜんそくとどういう関係があるの?と思われるかもしれません。私たちのからだにアレルギー物質などの異物が入ると、免疫の働きによってさまざまな抗体がつくられますが、肥満細胞の表面にはIgE抗体がつくられます。
このIgE抗体の働きによって、ヒスタミンなどの物質が放出され、気道の収縮を引き起こします(※3)。また、気道の粘膜にはさまざまな生理活性物質がつくられ、炎症を起こし、過敏になります。その結果、咳や喘鳴、呼吸困難などが起こりやすくなるのです(※4)。
原因が慢性的な炎症にあることから、ぜんそくは生活習慣病と同様に、慢性疾患のひとつとされています。治療法も、従来は発作が起きたときに緩和する対症療法が中心でした。しかし現在では、気道の炎症を改善し、発作を予防する(予防的治療)方向へと大きく転換しています。それだけに、薬による治療に加えて、生活習慣の改善も重視されています。

(※3)IgE抗体は、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などの原因ともなります。ぜんそくと、アトピー性皮膚炎や花粉症などを併発する人が多いのは、このためです。

(※4)肥満細胞は、私たちのからだに広く分布しています。その名称とは異なり、肥満そのものとは関係なく、多くの生理活性物質を放出し、ぜんそくやアレルギー性疾患など、からだにさまざまな影響を与えている点で、最近は注目されています。肥満細胞はマスト細胞ともいいます。

アレルギー性かどうか調べましょう

ぜんそくはアレルギー性疾患…そう思っている人も多いでしょう。確かに子どものぜんそくは、大半がアレルギーによるものです。しかし、大人のぜんそくでは、アレルギー性のタイプと、そうでないタイプとがあることがわかっています(※5)。
そのため治療時には、まずアレルギー性かどうかを調べる必要があります。またアレルギー性の場合、炎症の改善に加えて、原因物質(アレルゲン)を特定し、除去しなければなりません。
アレルゲンにはハウスダスト、ダニの糞や死骸、ペットの毛やフケ、花粉、食べ物などさまざまなものがあります。また、冷たい空気に触れたときや、運動したときに起こるケースもあります。
また、あまり知られていないことですが、大人のぜんそくではアスピリンのような鎮痛薬が原因で、激しい発作を起こすタイプもあります。これは「アスピリンぜんそく」といわれ、患者さんの10%程度が該当し、30~40歳代に発症する人が多くみられます。
風邪薬でも、同様の発作を起こすことがあります。過去に鎮痛薬や風邪薬などで軽い発作を起こしたことがある人は、とくに注意しましょう(※6)。

(※5)アレルギー性のぜんそくは、子どもの場合は約90%を占めますが、大人の場合には60%程度です。

(※6)鎮痛薬には、ぜんそく発作を起こしにくいタイプもあるので、医師に相談してください。

予防的治療法とは

大人のぜんそくは一般に、治りにくいといわれます。しかし、気道の炎症を改善することで、普通の人と同じように暮らしている患者さんは数多くいます。
予防的治療の場合、現在、炎症の改善にもっとも効果があるとされているのは、吸入ステロイド薬です。吸入器を使い、患部(炎症が起こっている気道)に浸透させるタイプの薬です。ステロイド薬と聞くと「副作用が怖い」と感じる人もあるかもしれませんが、飲み薬とは違って患部にだけ作用するので、長期の使用にも適しています(※7)。
ステロイド薬に抵抗がある場合には、漢方治療薬もあります。ただし、漢方薬でも副作用は起こりえます。また、一般に漢方薬には即効性はないので、発作を起こしやすい人には向いていません。こうした点について、医師と相談してから使うようにしましょう。
アレルギー性ぜんそくの場合には、花粉症の治療などでも行われている「減感作療法(特異的免疫療法)」もあります。原因となるアレルゲンを少しずつ患者さんに注射し、からだを徐々に慣らして過剰反応が起こらないようにする治療法です。
ぜんそくの改善には時間がかかります。それだけに担当医とよく相談し、自分に合った治療法を選ぶようにすることが大切です。

(※7)のど荒れなどの軽い副作用が出た場合には、うがいを励行します。実際の予防的治療では、吸入ステロイド薬だけでなく、患者さんの症状などに応じて抗アレルギー薬なども使用されます。

日常の自己管理をしっかりと

ぜんそくの発作を予防するには、医師まかせにするのではなく、日常生活における自己管理も欠かせません。

1.気道の状態を知っておく

息を勢いよく吐き出したときに息が流れる速さを測定する機器(ピークフローメーター)で、気道の狭まり程度を知ることができます。
大人のぜんそくでは、症状が自然に改善され、治ったようにみえることがあります。ところが実際には気道が狭くなっていて、気付かずにいるといきなり激しい発作に見舞われかねません。気道の状態を知ることは、こうした発作の予防に役立ちます。毎日の測定値などを記録し、診断時に医師に見せるようにしましょう(※8)。

2.アレルゲンを減らす

アレルギー性ぜんそくでは、原因物質をできるだけ減らす心がけが大切です。ハウスダストやダニの糞などが原因の場合には、室内の掃除を徹底して行いましょう。たばこは、煙などが発作を誘発するだけでなく、気道を狭める原因ともなるので、禁煙するようにしましょう。

3.風邪に気を付ける

大人の場合、風邪をきっかけにぜんそくが発症することも少なくありません。風邪をひかないように心がけると同時に、市販の風邪薬や解熱鎮痛薬を安易に使わないようにしましょう。

4.気候の変化に注意する

ぜんそくの発作は、気候が不安定な時期に起こりやすい傾向がみられます。とくに前線の通過などで気温が急に下がったときは要注意です。

5.激しい運動を控える

運動が、ぜんそく発作の引き金となることもあります。運動を行うときは事前に医師に相談し、どの程度の運動ならよいかを知っておきましょう。

6.ストレスをためない

大人のぜんそくでは、ストレスが誘因となって発作を起こすこともあります。積極的に気分転換を図り、睡眠を十分にとって、ストレスをためないように心がけることも大切です。

(※8)ピークフローメーターの使用法などについては、医師に相談してください。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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