vol.103 咳や痰が続くときは「結核」の可能性も

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結核に注意を

風邪をひく人が多くなる季節ですが、風邪と間違えやすい病気の一つに「結核(けっかく)」があります。とくに咳や痰がいつまでも続く場合には要注意。風邪薬などで一時的に症状が軽くなっても、また咳や痰をくり返す場合には、結核を疑ってみましょう。
結核は、50年前までは日本人の死亡原因の第1位だった病気です。たとえば樋口一葉、滝廉太郎、石川啄木、堀辰雄など、多くの人たちが結核で命を奪われ、「不治の病」と恐れられました。
その後、ストレプトマイシンなどの抗結核薬の開発と、食生活や衛生状態の向上によって結核は急速に減少し、日本では消滅したとさえ思われていました。ところが実際には結核は残り続け、1990年代半ばには増加に転じ、現在は横ばい状態とはいえ年間約2万5000人もが発症し、2000人以上が亡くなっています。
一般に結核は、医療が発達し、生活水準も高い先進国では患者数の少ない病気です。ところが日本は、アメリカやイタリア、ドイツなどと比較すると、結核にかかる人の比率(罹患率)が4倍にもなっていて、その対策が大きな課題となっています(※1)。
現在、患者の約65%は60歳以上の高齢層ですが、20~59歳の働き盛りの年代も約35%を占め、けっして少なくありません。若手の女性お笑い芸人(ハリセンボンの箕輪はるかさん)や男性モデル(JOYさん)が結核で入院したというニュースを、記憶している方も多いでしょう。
結核は、咳やくしゃみによって空気感染で広がる病気です。安易に考えず、まず結核についてきちんと知っておきましょう。

(※1)人口10万人当たりの結核罹患率は、アメリカ(4.3人)、イタリア(4.6人)、ドイツ(5.6人)に対し、日本(19.4人)となっています。公益財団法人結核予防会のデータより。

vol.103 咳や痰が続くときは「結核」の可能性も

結核とはどんな病気?

結核は、結核菌が体内の臓器などに感染し、増殖することで引き起こされる病気です。もっとも多くみられるのが、肺への感染(肺結核)です。
肺の場合、結核菌が増殖すると肺の組織に炎症が生じ、その範囲が次第に広がっていきます。その過程で咳や痰が出るので、結核の早期発見には、この2つの症状が重要なサインとなります。もし、咳や痰の症状が2週間以上続いたら注意が必要です(※2)。
初期の症状を放置していると、肺の組織が次第に侵食されて空洞化が進み、呼吸機能がどんどん低下します。また、結核菌がほかの臓器(腎臓、脊椎、腸など)に感染する場合もあります。その結果、咳に加えて血痰や息苦しさ、強い倦怠感、体重の急激な減少など、さまざまな症状がみられるようになります。
さらに重症化すると、深刻な呼吸困難におちいったり、ほかの臓器が機能しなくなったりし、生命が危険な状態になります。
このように結核は、放置していると非常に怖い病気です。
しかしその一方で、薬(抗結核薬)による治療効果が高く、治療方法も確立されています。きちんと治療すれば通常の生活に戻ることができる病気だけに、重症化する前に受診し早期発見をすることが大切です(※3)。
結核菌を完全に退治するには、半年以上の治療期間が必要となります。治療中に自分の判断で薬の服用をやめると、結核菌が耐性を獲得して症状がぶり返し、薬が効かなくなり、治療が難しくなる恐れも出てきます。もし結核と診断されたら、医師の指示を守り、辛抱強く治療にあたるようにしましょう。

(※2)咳と痰は重要なサインですが、人によっては初期には痰があまり出ないこともあります。その場合でも、咳が2週間以上続くときは注意が必要です。
(※3)結核の検査には、感染を確認する検査(ツベルクリン反応など)、発症を調べる検査(胸部X線検査)、菌の種類などを特定する検査(喀痰検査)などがあります。また、治療法としては現在、イソニアジドやリファンピシンなどの抗結核薬を複数(4種類程度)併用する方法が一般的です。

結核の感染と発症

結核菌に感染しても、だれもが発症(発病)するわけではありません。発症率は10人に1人か2人程度で、多くの人は症状が出ないままで過ごしています。
それにもかかわらず、日本で結核が広まっているのはなぜなのでしょうか。
その理由の一つは、結核菌のしぶとさです。日本ではかつて結核が大流行したため、現在の高齢者には若い頃に結核菌に感染した人が少なくありません。当時は発症していなくても、結核菌が体内で冬眠状態のまま生き延び、高齢にともなう抵抗力の低下によって発症する例が多いのです。
また、中高年層に糖尿病などの生活習慣病が増えていることも、理由の一つです。糖尿病などで抵抗力が低下していると、結核菌の活性が高まり、発症しやすくなります。
一方、若い世代の場合は、結核菌に初めて感染することが多く、免疫機能をもたないために発症しやすいという特徴があります。
とくに最近は、結核について知らない若い人が多いことも、感染を広げる理由となっています。その典型が、会社や学校での集団感染です。咳が止まらないのに受診せずに通勤や通学を続けた結果、会社の同僚やクラスメートなどの複数が次々と感染してしまうケースです。
結核はこのように、自分だけでなく周囲の人たちにも感染被害を及ぼすことがあるので、症状を放置しないようにしましょう。とくに乳幼児や子どもは、発症数は少ないものの重症化しやすいので、うつさないように十分に注意する必要があります(※4)。

(※4)乳幼児の結核予防には、BCG接種が効果的です。生後6カ月未満の乳児は基本的に無料でBCG接種を受けられますが、それ以降でも有料(市町村によっては無料)で受けられます。詳細は、保健所などにお問い合わせください。

結核の予防のために

もし結核菌に感染しても、からだの抵抗力が高ければ、結核菌の活動をおさえこむことができます。そのため結核の予防には、まず健康的な生活を心がけることが大切です。
睡眠をきちんととる、栄養バランスの良い食事をする、ストレスがたまらないようにするなど、基本的なことから生活全般を見直してみましょう。
タバコをよく喫う人は、結核の発症リスクが高いことが指摘されています。とくに、ヘビースモーカーには日ごろから咳や痰の症状を示す人があるため、結核の発見が遅れ、重症化しやすい傾向がみられます。また、受動喫煙によって家族などのリスクも高くなるので、禁煙を心がけましょう。
糖尿病や胃潰瘍のある方、あるいは人工透析を受けている方は、結核を発症しやすいことが知られています。また、喘息などの治療で副腎皮質ホルモン剤(ステロイド薬)を使用している方、関節リウマチの治療薬(TNFα阻害薬)を使用している方も、発症しやすいことが指摘されています。
さらに、最近は若い世代を中心に、HIV/AIDS(免疫不全症候群)の感染者が増えていますが、結核を併発しやすく、死亡リスクも高くなるのでとくに注意が必要です。
こうした病気などがある方は、咳や痰が続く場合には早めに医師に相談するようにしましょう。
一方、咳や痰の症状があったら、周囲の人にうつさないようにする心がけも忘れずに。マスクをして咳やくしゃみが飛び散らないようにする、食事のときは取り箸や取り皿を使う(ほかの人と同じ皿や鍋から直接食べない)など、感染の機会をできるだけ少なくすることが全体の予防につながります。

(参考)
結核についてもっと知りたい方は、公益財団法人結核予防会のホームページやパンフレットをご参照ください。
http://www.jatahq.org/

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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