vol.87 おとなに増えている百日咳(ひゃくにちぜき)
ヘルシーライフ
百日咳は子どもの病気?
ところがその百日咳が、おとなに急増しています。国立感染症研究所感染症情報センターによると、患者に占める成人(20歳以上)の割合が2001年にはわずか2.8%だったのが、この10年間毎年増え続け、2010年(1~4月)には56%に達しました。つまり、現在では半数以上が、おとなの患者さんなのです。
しかもこの数値は、全国約3000カ所の小児科での報告に基づくものなので、内科などでの数(見過ごされている数もふくめて)を加えると、もっとずっと多いと考えられています。
そのわりにあまり話題にならないのは、おとなの場合、百日咳にかかっても咳が長引く程度で、重症化する例が少ないからです。しかし、百日咳は感染力が強いので、すでに感染した人の咳などから次々に感染し、職場や学校での集団感染も起きています(※1)。
さらに深刻なのは、おとなから子どもへの感染です。とくに、乳幼児に感染すると、ひどい咳が出て、ときには死にいたるほど重症化しやすいのです。また、肺炎や脳症などの合併症も起こしやすい、とても危険な病気です。
自分の健康のためだけでなく、子どもや孫たちにうつさないためにも、長引く咳には注意が必要です。
(※1)百日咳は、百日咳菌という細菌の感染によって起こります。ただし、細菌がどのように作用して咳などの症状が出るのかなど、発症の仕組みはまだはっきりとは解明されていません。
百日咳の主な症状とは
(1)風邪に似た症状(2週間程度)
咳やくしゃみなどが続き、次第に咳がひどくなってきます。この期間を、カタル期といいます。
(2)発作性の咳(2~3週間)
百日咳の特徴の一つである、連続的な短い咳と息を吸うときにヒューと音のする発作が起こります。また息を詰めるため、顔などに浮腫(はれ)や内出血がみられることもあります。この時期を痙咳期(けいがいき)といいますが、乳児の場合には咳をあまりせずに無呼吸状態になったり、けいれんを起こしたりし、呼吸停止に至ることもあります。また肺炎や脳症を併発することもあり、もっとも危険な時期です。
(3)少しずつ回復(2~3週間)
発作が減り、咳も次第におさまってきます。ただし、急に発作がぶりかえすこともあります。この時期を回復期といいます。
最初の咳の症状から咳が出なくなるまで、3カ月程度はかかるため、昔から百日咳と呼ばれてきました。
これに対しておとなの場合には、感染してもコンコンという咳が長く続くだけで、発作などの症状はほとんどみられません。そのため風邪による咳と間違えることが多いのですが、咳が1週間以上続く場合には、百日咳を疑ってみたほうがいいでしょう。
咳だけとはいっても、激しい咳が続くと体力が奪われ、ほかの病気にもかかりやすくなります。夜間に咳が出ると睡眠不足におちいり、日常の仕事にも影響を及ぼします。また、同じように咳が続くほかの病気の可能性もあるので、いずれにせよ早めに受診して治療を受けることが大切です(※2)。
子どものころに予防接種をした人でも、ワクチンの効果は次第に薄れるので、百日咳菌に対する免疫力は低下します。それが、おとなの患者が増えている一つの原因とも考えられています。
(※2)百日咳は細菌感染によるものなので、治療はマクロライド系の抗生物質によるものが主流です。薬は初期(カタル期)ほどよく効きます。
マスクで感染と悪化を防ぐ
百日咳の細菌は、咳やくしゃみなどによる飛沫感染によって広がります。また、咳やくしゃみをおさえた手で何かにさわり、そこから接触感染をする場合もあります。
細菌の排出がもっとも多いのは、咳が出始めてから2~3週間程度(カタル期)です。したがって咳が出たら、まずマスクをしてほかの人に感染させないように心がけましょう。また、接触感染を防ぐためには、手洗いをきちんとすることも必要です。
とくに、予防接種をしていない乳幼児が近くにいる場合には、感染させないように十分に注意することが大切です。
咳は、ちょっとした刺激で出やすくなります。タバコの煙、ほこり、冷たい風、乾燥などに誘発されることが多いので、自分が禁煙をすることはもちろんですが、咳が出ているときは人ごみなどをさけるようにしましょう(※3)。
マスクは、ほかの人への感染を防ぐだけでなく、冷たい風や乾燥による刺激から自分を守る役割もします。とくに高齢者の場合、咳の症状をこじらせると肺炎や気管支炎などを併発することもあるので、マスクをきちんと着用しましょう。
(※3)百日咳は一年をとおして感染がおこりますが、初夏と秋に増えやすい傾向がみられます。また数年ごとに急増をくり返す傾向もあるので、ニュースなどで百日咳が話題になる年にはとくに気をつけましょう。
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