vol.182 気づきにくい乳児や思春期の「貧血」

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Vol.182 気づきにくい乳児や思春期の「貧血」

夏に限らず無性に氷が食べたくなる。山盛りにした氷をつまみながら勉強している―――。氷を好んで食べる氷食症は、鉄欠乏性貧血で現れる症状です。鉄欠乏性貧血は、貧血の中で最も多く、体の鉄の不足によって起きます。よく知られた病気ですが、子どもでは、本人や家族も症状に気づきにくく、健康診断でも見つかりにくいという意外な盲点があります。
小児科医で血液の診療に詳しい杏林大学病院の吉野浩准教授は、「たまたま別の病気が疑われて血液検査をしたときに見つかったり、部活動をしていてスタミナがなくなった、記録が落ちてきたという症状から分かったりします。貧血を疑って受診することは少なく、見逃されやすい」と指摘します。
子どもの貧血は、鉄欠乏が原因の場合は、発達や発育に影響を及ぼす可能性があります。鉄欠乏が原因でない場合は、別の重大な病気が隠れていることもあり、侮れない病気です。

鉄欠乏が起こりやすい時期がある

鉄欠乏性貧血は、赤血球の材料となる鉄の不足、体内での需要の増大、排出の増加が主な原因となります。子どもでは、欠乏しやすい2つの時期があると吉野准教授は話します。それぞれ解説しましょう。

  • 生後9カ月ごろから2歳
    生後間もない乳児は、母親から鉄を得ていて欠乏することはありません。しかし、母乳に含まれる鉄は少なく、人工乳もやや多いとはいえ吸収率が低いため、4~5カ月ごろになると鉄が不足します。「このあたりから離乳食が始まり、食物から栄養を取るのですが、赤ちゃんが離乳食を食べてくれない、市販品で簡単に済ませる、いつも同じメニュー、では鉄が不足し、その後、貧血になります」(吉野准教授)。
    乳児期は体と脳が著しく成長します。この時期に鉄欠乏があった人となかった人では、知能の発達に影響するという報告もあり、乳児期の鉄の摂取は重要です。
  • 思春期
    小学校高学年から高校生までの思春期も、体が大きく成長します。そのため、血液や筋肉の増加とともに鉄が必要になります。また、女性は月経が始まり、出血によって鉄が失われます。鉄の需要が増し、失われやすいという状態になります。

鉄欠乏性貧血の治療と注意点

鉄欠乏性貧血は、診断されると鉄剤で治療できます。内服薬の場合は、約1カ月服用すると貧血は改善します。すぐにやめると元の状態に戻りやすいため、できれば約半年は飲み続け、体内の貯蔵鉄を満たすことが大切です。
ただし、治療していても注意が必要です。「本当に鉄欠乏性貧血なのかは、効果を検証しないと診断できないのです。鉄剤を1カ月飲んでも効果がない場合は、鉄欠乏性貧血ではないと考えられるので、血液の専門医を受診した方がいいと思います」(吉野准教授)。

隠れた重大な病気にも注意を

子どもの貧血には、命に関わる別の病気も潜んでいます。原因としては、白血病、神経芽腫、悪性リンパ腫といった小児がんなどがあります。これらは重大な疾患であり、気づきにくいので注意が必要です。また、小児がんはまれながんですが、近年は、小児がんを専門とする国内の大学病院や小児病院、総合病院がほぼ全て参加しているNPO法人『日本小児がん研究グループ』の活動によって、診断や治療の研究開発が進められ、国内のどこにいても標準的な治療が受けられるシステムが作られている、と吉野准教授は話します。「小児がんの中で最も多いのは、急性リンパ性白血病で、近年の治療の進歩により、約80%の人が治るようになってきました。遺伝子検査が大きく前進し、最近では、遺伝子レベルでタイプが分かります。それらの結果などにより、適切な治療を行います」。小児がんを発症した場合は、治療を受けられることを知っておきましょう。

日頃から貧血をチェックしよう

鉄欠乏性貧血は、自分や周囲の大人が気づかないため見逃されやすく、また軽く考えて治療していない人もいます。しかし、意外な原因や症状があるので気をつけましょう。 思春期の鉄欠乏性貧血では、胃潰瘍などを起こすヘリコバクター・ピロリ菌の感染が原因ということがあります。ピロリ菌の場合は、除菌治療でよくなります。学力が伸びない、集中力がないのは、鉄不足が原因かもしれません。「学力や部活の不振が、貧血による症状である場合があります。思春期は受験を控えた大切な時期で、その先の人生にも関わります。悩んでいたら一度検査を受けてほしいと思います」(吉野准教授)。また、最初に登場した氷食症も思春期に多い症状。ガムや海苔、土が食べたくなる人もいます。このような異食症は鉄欠乏性貧血の症状で、なぜ、起きるかはまだよく分かっていません。
子どもの症状は、顔色が悪いくらいでその他の諸症状は自覚していないことが多いため、「下まぶたの結膜や爪の下の皮膚に赤みがあるか」もチェックしましょう。どちらも白くなっていたら貧血が疑われます。心配な場合は、医療機関で血液検査を受けることをお勧めします。

監修 杏林大学医学部 小児科学教室 准教授 吉野 浩先生
取材・文 阿部 あつか

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