vol.185 「白内障」の手術で改善する認知機能

健康・医療トピックス

白内障は、レンズの役割をしている目の水晶体が濁り、見えにくくなる病気です。個人差はありますが、60歳代以上に多く発症します。また、高齢になると認知症など脳の病気が増えます。目で物が見えるのは、目に入った光が角膜と水晶体を通って、さらに奥の網膜に集まり、視神経が脳に伝えるためです。目と脳はつながっているので、病気も関連があるのではないか―――。目と脳に注目した研究が進められています。

vol.185 「白内障」の手術で改善する認知機能

白内障と認知症の研究から分かってきたこと

筑波大学医学医療系眼科の加治優一准教授は、白内障と認知症の関連について研究しています。「アルツハイマー病では、脳にアミロイドβがたまりますが、白内障の濁りの中にもたまることが私たちの研究で分かっています。重症のアルツハイマー病とそうでない人の比較はできませんでしたが、白内障の手術をすると表情が出てくる、記憶が少しよくなるなど認知機能の一部が改善します」。
また、今、取り組んでいるのは、白内障の手術前と手術後を比較し、認知機能がどれくらい改善するか。結果は解析中とのことですが、「白内障の手術をすると目が見えるだけでなく、脳の働きがよくなるようです。目に光が入ると脳の血流も改善するのではないか。脳を活性化している可能性があります」と話します。

白内障とは

白内障は、水晶体の濁りによって目がかすんだり、見えにくくなったりする病気です。この濁りは、たんぱく質が変性したものです。広がり方やどこにたまるかによって、白内障にはいくつかパターンがあります。濁りが軽い場合は、点眼薬で進行を抑える治療をしますが、ある程度進行し、日常生活に支障が出てきた場合は手術を行います。

白内障の手術

白内障の手術は、濁った水晶体を取り除き、目の中に眼内レンズを挿入します。手術をすると見えづらさが解消されます。手術時間は白内障の程度によりますが、10~15分程度。日帰り手術が可能です。術後は通院する必要があるため、通院できない場合は、入院で行います。片目は3泊4日、両目では1週間程度が目安です。

高齢者のこんな症状は、目の病気も一因

手術は基本的に何歳になっても受けられます。「車いすに乗って家族に付き添われ、表情もなかった患者さんが手術後に歩いて通院し、別人かと思うことがありました。白内障の手術をすると、認知症と思われていた症状が改善する人がいます。しかし、眼科の医療にたどり着けない人が多く、それが問題です」と加治准教授。
「足元がおぼつかない」「物をよく落とす」「転ぶ」「ぶつかる」「物忘れ」「顔の見分けがつかない」などは認知症ではなく、見えにくいことが原因かもしれません。高齢者は不便を訴えないことがあります。「白内障は、本人が症状を言わなくても目の顕微鏡の検査で分かります。もう年だし、認知症だからと諦めないで眼科を受診してほしいですね」。

眼内レンズの選び方

また、高齢になると見えるだけで十分と、一定の距離だけに焦点が合う「単焦点眼内レンズ」を選びがちですが、「多焦点眼内レンズ」も選択肢とアドバイスします。「多焦点眼内レンズは、近くや遠く、中心も見えます。一般的には、仕事や運転、運動もする活動的な人に勧められますが、物忘れをしやすい人にもよいと思います。遠くも近くも見やすくなるため老眼鏡が要らなくなることが多く、眼鏡の置き忘れもなくなります」。
多焦点眼内レンズを用いた白内障手術は、先進医療のため健康保険が適用されません。眼科医とよく相談して自分に合うレンズを選びたいものです。

問題がないときから検査を受けよう

白内障は、加齢とともに増えますが、糖尿病があると白内障にも注意が必要です。健康診断や人間ドックで糖尿病といわれたら、内科だけでなく眼科を受診することも大切です。目に問題がなくても、検査は無駄にはなりません。「目の検査は、視力以外に目の硬さ、視神経の色や形などさまざまなデータを取っています。健康な目の状態を記録する大事なチャンスです。目の病気になったのは、いつからなのか。生活を見直すきっかけになります」(加治准教授)。目の病気は、高血圧や脂質異常症、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病も関連があります。年1回は、眼科で検査を受けるようにしましょう。

目の検査前に知っておきたい注意点

また、目の検査では、目の奥の網膜や視神経を調べる眼底検査も行います。瞳孔を広げる点眼薬を差すため、検査後はまぶしく感じ、遠近感がなくなり、車の運転は危険です。目の検査を受けるときは、患者さん自身が車を運転して受診することは避けてください。運転は誰かに代わってもらう。電車やバスなどを利用する。通院しやすい場所でかかりつけの眼科医を見つけましょう。

監修 筑波大学医学医療系 眼科 准教授 加治優一先生
取材・文 阿部 あつか

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