vol.190 健康保険で受けられる「三叉神経痛のガンマナイフ治療」

健康・医療トピックス

洗顔や歯磨き、食事をしたときなどに顔に激しい痛みを感じていませんか。歯科で診てもらってもよくならない。何年も顔の痛みを我慢している。こんなつらい痛みは、三叉(さんさ)神経痛の可能性があります。三叉神経痛は投薬と手術で治療でき、難治性のものに対しては、2015年7月からガンマナイフによる治療に健康保険が適用されています。65歳以上に多い病気ですが若い人も発症し、寒暖差がある時期は注意したい痛みです。三叉神経痛の特徴や治療を知っておきましょう。

vol.190 健康保険で受けられる「三叉神経痛のガンマナイフ治療」

三叉神経痛とは?

三叉神経は脳幹から始まり、分かれた知覚神経がそのまま顔面(おでこ、頬、下あご)に延びて分布していることから三叉神経と呼ばれます。三叉神経痛は、洗顔や食事など特定の行動をしたときに発作的に激烈な痛みが表れる病気で、まるで雷が落ちたかのように電気が走る、火箸を突っ込まれるような激痛が起きます。
三叉神経痛のガンマナイフの治療に詳しい東京女子医科大学病院脳神経外科の林基弘講師は、「くも膜下出血と三叉神経痛の両方を経験した患者さんは、三叉神経痛の方が痛みは激烈だったと話します。痛みが発作的に起きると何もできませんが、短時間で収まるため普段どおりの生活ができます。しかし、痛みの原因がわかず、周囲から何年も理解されず精神的な苦痛につながることも多いので、だんだん負のスパイラルに入って命を絶とうとする人もいるほどだ」と言います。放置しないできちんと診断を受け、治療しなくてはいけない病気と指摘します。

三叉神経痛の治療法

三叉神経痛は、動脈硬化によって血管の形が変わり、三叉神経に接触したり、圧迫したりすることで痛みが起きます。激しく痛みますが治療でよくなるもので、薬物療法、手術、ガンマナイフによる治療法があります。
三叉神経痛は基本病態が発作なので、初期の薬物療法は脳の異常な興奮を抑える抗てんかん薬のカルバマゼピン(商品名 テグレトール)が代表的な薬です。手術は、薬が効かなくなったときに検討されます。耳の後ろを開頭して三叉神経と血管の間を開けたり、血管を釣り上げたりして神経と接触させないようにします。手術は脳神経外科で行う根治治療で、主に75歳未満が対象です。

ガンマナイフ治療と効果

ガンマナイフによる治療は、頭部にガンマ線を照射する放射線療法です。薬が効かない人や薬が使えない人、手術が受けられないなどの難治性に対して検討され、手術が困難な高齢者も受けられます。
治療では、患者の頭部に三叉神経と平行になるようにフレームを固定し、約200本のガンマ線を患部に一点集中させて照射します。治療時間は40~50分程。患者は横になっているだけで痛みは特になく、治療は日帰りで行われます。「三叉神経痛のガンマナイフ治療は、神経を壊さない一歩手前の線量を照射し、神経の痛みだけを取り除きます」と林講師。治療を受けた患者さんのうち、その日に痛みがとれる人が15%ほど。通常は約3週間で痛みがよくなると言います。

ガンナマイフの前に薬の飲み方に注意

ガンマナイフによる治療は最終的な手段なのですが、ガンマナイフを希望して受診する難治性の患者さんでは、薬を処方されていても効いていない場合があるため、注意が必要だということです。
三叉神経痛の通常の治療薬は、いわゆる痛み止めの薬(抗炎症薬)ではありません。痛みの発作が出る前に、予防的に薬を飲まないと効果はないので気をつけましょう。「私は薬が効いていない患者さんに起床時と就寝時の1日2回、痛みの発作を抑える用量を飲んでもらい、起床から1時間半は洗顔や食事などはしないように指導しています。薬の飲み方を変えるだけで約7割の人は痛みがよくなり、中には痛みがなくなってしまう人もいます」(林講師)。難治性と思っていても初期の治療でよくなることがあります。また、薬で痛みがよくならない場合は、三叉神経の診療に詳しい脳神経外科に相談してみましょう。

診療に詳しい脳神経外科医を受診しよう

また、顔の痛みは、三叉神経痛以外でも起きます。例えば、抜歯後や副鼻腔炎などによる痛みは、三叉神経が傷ついた三叉神経障害性疼痛(とうつう)の疑いがあります。一般に顔面神経痛とは、顔面神経麻痺という病気です。顔の筋肉を支配している神経に障害がおきて顔の片側が麻痺します。このような病気と三叉神経痛が混じっていたり、間違って別の病気と診断されているケースもあるようです。顔の痛みも脳神経外科で診察を受けましょう。
さらに、ガンマナイフの治療は照射が難しく、顔のしびれなどの副作用が出ることもあり、的確に治療できる受診先を見つけることが大切です。「三叉神経痛に対するガンマナイフ治療は、消える魔球をホームランで打ち返すようなものです。MRIとCT検査で合成画像は作りますが、神経は見えにくく、ミクロン単位で補正し、最大の注意をして照射します。正確に照射しないとホームランにはなりません」と林講師。三叉神経痛のガンマナイフ治療に対して経験豊富な脳神経外科医を受診してほしいと話しています。

監修 東京女子医科大学病院 脳神経外科 講師 林 基弘先生
取材・文 阿部 あつか

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