vol.199 花粉が原因「アレルギー性結膜炎」の治療とセルフケア
春になると飛び始めるスギやヒノキの花粉。こうした花粉に対するアレルギー反応である花粉症では、鼻だけでなく、目のかゆみや充血、まぶたの腫れなどの症状が現れることもあり、これを「アレルギー性結膜炎」といいます。
このアレルギー性結膜炎でも、花粉が飛散する前から治療を始める「早期療法」が有効で、症状のピークを抑えられたり、症状が出ている期間を短くしたりすることが期待できます。近年、黄砂やPM2.5の影響で、症状が悪化しやすいことが指摘されています。早め早めの対策で、つらい時期を乗り越えましょう。

目に症状が現れるメカニズム
林野庁によると、スギ花粉の直径は0.032mm。顕微鏡で見ると球体で、表面に角のような突起があります。アレルギーを引き起こすタンパク質(アレルゲン)は主に花粉の中心部分にあり、周りは皮殻(ひかく)で覆われています。この皮殻が何らかの理由ではじけて、放出されたアレルゲンが私たちの体に入ることで、アレルギー症状が引き起こされます。日本眼科学会指導医で、アレルギー疾患に詳しい帝京大学医学部眼科学講座の三村達哉准教授は、アレルギー性結膜炎が起こるメカニズムをこう説明します。
「目やまぶたにかゆみなどの症状が現れるのは、眼球の表面を覆う結膜などにくっついた花粉の皮殻が涙による浸透圧で壊れて、アレルゲンが溶け出す“ハッチアウト”が生じるため。目の周りにはたくさんの血管があるので、アレルギー反応が起こりやすいともいえます」
黄砂やPM2.5で症状が悪化
近年、黄砂やPM2.5といった大気汚染がアレルギー疾患に悪影響を与えていることが分かっていますが、アレルギー性結膜炎においても、PM2.5が多く観測された日ほど外来を受診する患者が増えるといいます。
「大気中に舞っている花粉は丸いままですが、黄砂やPM2.5に触れると化学反応などが起こって皮殻が壊れ、中のアレルゲンが放出されることが実験で確かめられています。アレルギーの発症や症状の悪化は、体質に加えて、体内に入ってきたアレルゲンの量で決まるといわれています。つまり、大気汚染によってアレルゲンが空気中に多量に漂っている環境下で生活している人ほど、症状が悪化しやすいといえるのです」(三村准教授)
加えて、目や鼻を覆う粘膜は、ホコリやアレルゲンなどの侵入をブロックする役割を持っていますが、黄砂やPM2.5が粘膜にくっつくと、その防御反応が弱まることも分かっています。
アレルギー性結膜炎の症状
アレルギー性結膜炎の代表的な症状はかゆみや充血ですが、そのほかにも、異物感(ゴロゴロした感じ)や涙目、目やに、まぶたの腫れなどが現れます。鼻の症状を併せ持つ人は65~70%と、少なくありません。
目のかゆみは耐えられないものですが、かゆいからといってゴシゴシとこするのは厳禁。角膜(黒目)を覆う上皮の一部に傷がついて剥がれる「角膜上皮びらん」になることがあるからです。「目の周囲の皮膚はとても薄くデリケートですので、かゆくても絶対にかかないように。何よりかけばかくほどかゆみは増すので、根本的な解決になりません。まぶたを叩いたり、強く押したりするのもダメです。応急処置として勧められるのは冷却。ぬれタオルなどを当てて冷やすことで、一時的にですが症状は和らぎます」(三村准教授)
治療は花粉飛散2週間前から始める
アレルギー性結膜炎の治療は、点眼薬が中心です。現在、医療機関で処方されているのは、アレルギー反応を抑える抗アレルギー薬、角膜上皮についた傷を補修するヒアルロン酸、目の粘膜の主要成分であるムチンを作り出す角膜保護液のジクアホソルナトリウムなど。抗アレルギー薬を中心に、必要に応じてヒアルロン酸やジクアホソルナトリウムが追加されます。ドライアイがあると結膜炎の症状が悪化しやすいため、ドライアイを改善する点眼薬を使うこともあります。
鼻の症状で処方される抗アレルギー薬の飲み薬も有効で、重症例では点眼薬+飲み薬で治療を進めます。また、まぶたの腫れやかゆみには軟膏で対応します。
ドラッグストアや薬局で扱っている目薬を使う際は、「できれば防腐剤が入っていないものを選んで」と三村准教授。「なぜなら、防腐剤の中には角膜の上皮に悪い影響を与え、アレルギー性結膜炎をかえって悪化させてしまうものがあるからです。どの製品がよいのか分からなければ、薬剤師に聞いてみましょう」(三村准教授)
また、防腐剤フリーの目薬は品質の点から1カ月以内に使い切ること。使い切れなかったら破棄します。
治療をする上で大切なのは、そのタイミングです。「鼻の症状と同様、アレルギー性結膜炎の治療は花粉が飛散する2週間ほど前から始める『初期療法』が有効です。治療の開始を早めることで、症状が出るのを遅らせたり、症状のピークを抑えられたり、症状の出ている期間を短縮させたりすることができます」(三村准教授)
花粉の飛散予測や飛散状況は、日本気象協会が運営するウエブサイト「花粉飛散情報(アドレスを入れる)」などで分かります。これらのサイトで情報をキャッチし、早めに対策を講じることが大切です。
セルフケアの基本は「入れない・洗い流す」
アレルギー性結膜炎ではセルフケアも大事です。押さえておきたいポイントは「花粉を目に付けない」「入ったら洗い流す」という2つです。外出時には専用のメガネなどを装着し、自宅に戻ったら目に入ったアレルゲンを洗い流します。その際は水道水ではなく、市販されている洗眼液を使いましょう。カップ式のものだと、まぶたやまつげに付着したアレルゲンまで入ってしまうので、目の周りを軽く洗ってから使います(メイクも落とします)。
「洗眼液の使用は1日1回まで。やり過ぎると目の粘膜が洗い流され、逆効果です。洗眼液が手元にないときは応急的な方法としてドライアイ用の目薬を4、5滴垂らして洗ってもよいでしょう」(三村准教授)
監修 帝京大学医学部眼科学講座 准教授 三村達哉先生
※このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。