vol.12 歯周病を治して心臓疾患を予防する

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歯周病ってどんな病気?

日本人にもっとも多い病気、それは歯周病かもしれません。厚生労働省の「歯科疾患実態調査」によると、歯周病は25~34歳の若い世代ですでに約80%、45~54歳の中年層では88%もの人にその兆候がみられます。
これほど歯周病の人が多いのに、それがどんな病気なのかはあまり知られていません。これは歯周病が初期には痛みもなく、歯肉(歯茎)がちょっとはれたり、歯磨きのときに少し出血する程度なので、そのまま放置している人がほとんどだからでしょう。
歯周病は、歯をささえる歯肉やその周辺組織が炎症を起こし、悪化すると歯槽骨が溶け、歯を失うことにもなる病気です。その原因となるのが、しこう歯垢(プラーク)です。歯垢というと、食べカスのことだと思っている人が多いのですが、実は歯周病菌という細菌のかたまりなのです(*1)。
歯垢がたまると、歯周病菌の酵素や毒素によってまず歯肉が炎症を起こします(歯肉炎の段階)。次いで歯と歯肉のすきま(歯周ポケット)に歯周病菌が増殖し、炎症が歯根膜や歯槽骨にまで及びます(歯周炎の段階)。この状態を放っておくと、歯がぐらつき、やがて抜け落ちてしまいます。

(*1)歯を失うのは虫歯のためと思われがちですが、最大の理由は歯周病です。その原因となる歯周病菌には、ポルフィロモナス・ジンジバリス(PG菌)をはじめとした数種類の細菌類があります。

vol.12 歯周病を治して心臓疾患を予防する

歯周病がまねく全身の疾患

歯周病が、ほかの病気とも関連があることは、以前から知られていました。たとえば糖尿病やリウマチになると、細菌に対する免疫力が低下するため、歯周病が悪化します。
その反対に最近になって、歯周病になると、心臓病をはじめ呼吸器疾患、糖尿病などになりやすいこともわかってきました。とくに心臓病は、歯周病と密接な関係があります(*2)。
歯周病菌は歯肉から血管をとおって心臓にも移動し、血管壁に炎症を起こします。すると炎症部分が動脈硬化を起こし、狭心症や心筋梗塞の引き金となるのです。動脈硬化の部分からは、肺炎クラミジアなどと並んで、歯周病菌が数多く発見されます(肺炎クラミジアは肺炎などを起こす原因菌のひとつです)。

また呼吸器疾患については、歯周病菌をふくむ唾液が気管支から肺に入ると、肺炎を引き起こすことがあります。高齢者の場合は、唾液の誤飲をしやすいため、とくに注意が必要とされます。
糖尿病については、歯周病菌に対する免疫反応から生じるサイトカイン(生理活性物質)が、インスリンの働きをさまたげることがわかってきました。歯周病があると糖尿病のリスクが高まるだけでなく、治療のときも血糖値のコントロールがむずかしくなります。
歯周病菌だけがこうした病気の原因ではありませんが、要因のひとつであることがはっきりしてきたのです(*3)。

(*2)感染性心内膜炎が、歯周病菌と関係することは以前から推測されていました。加えて 2000年にカリフォルニア大学のマイケル・ニューマン教授(元米国歯周学会会長)が、心筋梗塞や呼吸器疾患、糖尿病などへの影響を指摘したことから歯周病への関心が急速に高まり、その後の研究から心臓病との関係が解明されつつあります。

(*3)歯周病は、早産や低体重児出産にも関係しています。歯周病菌がサイトカインを生み出し、子宮の収縮などに影響するためと考えられています。

<歯周病の自覚症状>

一般に歯周病になると、次のような症状がみられます。症状がいくつも重なる場合や、とくに最後の3つの症状のうち1つでもあてはまる場合には、悪化している可能性があります。早めに歯科で検査を受けましょう。

  • 朝起きたとき、口のなかがネバネバする
  • 食べ物が歯のあいだによくはさまる
  • 冷たい飲み物や冷たい空気が、歯肉にしみる
  • 歯肉がはれ、うずくことがある
  • 口臭がする(歯垢は口臭の大きな原因です)
  • 歯磨きのときに出血する
  • 固いものを噛むと出血する
  • 歯肉が赤黒くなり、固いものが噛みにくい
  • 歯肉がぶよぶよして、押すと血やウミが出る
  • ぐらぐらしている歯がある

歯垢の除去は正しい歯磨きで

歯周病の予防や改善の基本は、原因となる歯垢の除去(プラークコントロール)です。歯垢は、歯磨きでとることができます。また、歯垢が付いて歯肉炎を起こしていても、初期の段階なら歯磨きによって自分で治すこともできます。
歯磨きは子どもの頃からしているはずですが、問題は磨き方です。大半の人は虫歯予防の歯磨きはしていても、歯垢をとる歯磨きはしていません。歯周病菌は嫌気性で、空気との接触を嫌うため、歯周ポケットに入り込みます。そのため歯垢をとるには、歯周ポケットの部分を意識的にきちんと磨く必要があります。
歯周ポケットを磨くのに適した歯ブラシは、ヘッドの部分が小さめで、ブラシの質も少しやわらかめ(歯肉を傷めない程度)のものを選びます。そしてブラシを歯の付け根(歯周ポケット)に当てて小刻みに動かし、歯垢をかき出すようにします。電動歯ブラシの場合も、歯周ポケットにブラシをきちんと当てることが大切です。
歯と歯のあいだも歯垢のたまりやすい場所です。その部分にブラシの先端を当て、小さく横に動かして歯垢をとります。食べカスが詰まりやすい人は、デンタルフロス(糸)や歯間用ブラシを使うとよくとれます。歯磨きのときに、フロスなども一緒に使う習慣をつけるといいでしょう(*4)。
とくに歯垢が残りやすいのは奥歯です。磨くときのクセもあって、右利きの人は右奥、左利きの人は左奥に磨き残しが多いので、その部分を意識的に磨く必要があります。

また、睡眠中は唾液が減るため、歯周病菌がはびこりやすくなります。夜寝る前にも歯磨きをすると、歯周病菌の増殖をおさえ、起床時の口のネバネバ感も解消します。

(*4)デンタルフロスは便利な道具ですが、使い方を間違えると歯肉を傷めることもあります。初めて使うときは、歯科で指導してもらうといいでしょう。

歯周病の予防を習慣づける

歯垢が固くなって歯石の状態になると、歯磨きではなかなか除去できません。また歯石があると、その上に歯垢が付きやすくなります。すでに歯石がある場合は、まず歯科で歯石除去をしてもらったほうが、歯磨きの効率もよくなります。
毎日歯磨きをしていても、磨き残しがあると少しずつ歯石ができてしまいます。また、歯並びが悪かったり、体質的なものから歯石のできやすい人もいます。できれば年に1、2回は歯科を受診し、歯周病の検査も兼ねて歯石除去をしてもらうことも大切です。
歯肉のマッサージも、歯周病の予防には効果があります。歯周病を起こしている歯肉は、ほかの部分よりも血液の流れが悪くなっています。マッサージによって血流が改善されると、歯肉が盛り上がって歯周ポケットは小さくなり、それだけ歯周病菌がはびこりにくくなります。
やわらかめの歯ブラシでも歯肉のマッサージはできますが、強く当てると歯肉を傷めることもあります。出血しやすい人は、マッサージ用歯ブラシもあるので、歯科や薬局で相談してください。

喫煙習慣などにも気をつけましょう

歯周病は、生活習慣病のひとつです。歯磨きの仕方だけでなく、喫煙や食事、ストレスなどの影響も受けます。
とくにリスクが大きいのは、喫煙習慣です。たばこを吸うと、ニコチンの作用で歯肉の血流が悪化し、低酸素状態になるため、歯周病菌が増殖しやすくなります。免疫力も低下するため、歯周病の進行も早まります。歯肉に異常がみられたら、禁煙あるいは節煙を心がけたほうがいいでしょう。
食事面では、間食などで糖分をとりすぎないことも大切です。糖分は、歯周病菌の重要な栄養分だからです。また、糖分のとりすぎなどから糖尿病になると、歯周病も悪化します。
ストレスも、歯周病を悪化させる原因のひとつです。ストレスを受けると睡眠中に歯ぎしりをすることが多くなり、歯だけでなく、歯肉にも余分な負担がかかるからです。
中高年になると次第に歯肉が後退し、歯周ポケットが広がるため、歯周病菌が繁殖しやすくなります。心臓病などの全身疾患をまねかないために、毎日の生活のなかで歯周病の予防や改善を心がけましょう。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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