vol.130 機能性ディスペプシアとは - その症状と原因

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機能性ディスペプシアとは - 胃などの機能低下

胃がもたれて重く感じたり、みぞおちのあたりが痛くなったりした経験は、多くの方にあるでしょう。そんなとき、ほとんどの方は、市販の胃腸薬などを飲んで対処しているのではないでしょうか。
それで症状が治まってしまえばいいのですが、軽く考えていると同じ症状をくり返すようになり、やがて慢性化することも少なくありません。そうなると、食欲の減退、気分の落ち込み、睡眠障害などの症状が重なり、さらには痛みへの不安も加わって、仕事や家事に支障をきたすことになりかねません。

胃もたれ、みぞおち痛は機能性ディスペプシアの症状

胃もたれやみぞおち痛は、以前は神経性胃炎とか慢性胃炎といわれ、原因がよく分からないまま「ストレスや疲れによるもの」とされてきました。ところが胃炎とはいっても、病院で内視鏡検査を受けると、半数程度の人には潰瘍などによる炎症が見つかりません。
そうした場合、最近は「機能性ディスペプシア」と診断されることが多くなっています。ちょっと難しそうな病名ですが、胃などの機能低下によって起こる不快な症状という意味です。

中高年の機能性ディスペプシア - 胃の機能低下

機能性ディスペプシアにはさまざまな症状がありますが、一般に、若い世代には痛みをともなう症状が多いのに対し、中高年世代には胃もたれや膨満感が多くみられます。それは加齢にともなって、胃の機能が低下するためです。
私たちが食事をすると、まず胃が拡張して食べた物を受け入れます。続いて胃の筋肉が伸び縮みして、胃酸と食べた物を混ぜ合わせ、消化しながら十二指腸のほうへと運びます。こうした胃の消化活動のどこかで障害が起こると、胃の中に滞留する時間が長くなったり、食べ物を受け入れにくくなったりして、胃もたれや膨満感が生じます。
加齢による胃の機能低下の場合、市販薬などで一時的に症状が改善されても、機能そのものが回復しているとは限りません。そのため、食べすぎや飲みすぎ、ストレスなどのちょっとしたことがきっかけで、症状をぶり返すことも多くなります。
胃もたれや軽い痛みくらいと安易に考えずに、早期受診と同時に、生活習慣(食事や運動、睡眠など)を見直してみることが大切です。

vol.130 機能性ディスペプシアとは - その症状と原因

機能性ディスペプシアの症状 - 胃もたれ、みぞおちの痛み

機能性ディスペプシアの代表的な症状には、次のようなものがあります。

  • 胃もたれ

    胃の筋肉運動(ぜん動運動)など全体的に機能が低下することで、食べた物の消化や移動に時間がかかるようになり、胃がもたれたり、重苦しく感じたりすることが多くなります。
  • 早期飽満感

    胃の拡張が遅れたり、十分に拡張しないと、食べ物を受け入れにくくなり、食べ始めてすぐにお腹がいっぱいになったと感じるようになります。食べすぎによる飽満感とは違い、少ししか食べられない状態です。
  • みぞおちの痛み

    胃や十二指腸の知覚過敏や胃の内圧の上昇などが原因で、食べた物や胃酸などの刺激によって、みぞおち付近に痛みを感じるようになります。空腹時に痛みをくり返し感じる場合は、胃・十二指腸潰瘍の疑いもあります。
  • みぞおちの灼熱感

    胃や十二指腸の知覚過敏などが原因で、みぞおち付近に熱く、焼けるような不快な症状がみられます。

機能性ディスペプシアが慢性化する原因

これらの症状のうち胃もたれ感と早期飽満感は、機能性ディスペプシアの方の40~50%にみられるほど典型的な症状です。ただし、4つの症状の原因には共通点も多いため、いくつかが同時に起こることも少なくありません。
たとえば、胃もたれがあると、胃の筋肉運動が長時間に及び、また食べ物や胃酸も長時間にわたって滞留します。その結果、胃に分布する知覚神経が刺激を受けて過敏状態となり、みぞおちの痛みや灼熱感を感じやすくなります。早期飽満の場合も、胃の内圧の過度の上昇が知覚過敏の誘因となることがあります。
胃や十二指腸が知覚過敏になると、それまで普通に食べていた食事量や食べ物の種類でも、痛みを起こしやすくなります。また、胃酸の分泌が正常であっても、痛みが起こることもあります。痛みは、日常生活に支障をきたす大きな要因なので、軽い胃もたれ程度の段階でも放置せずにきちんと対処する必要があります。

病院での機能性ディスペプシアの診断では、上記の4つの症状のうち1つ以上が最近3カ月間程度続いていることや、検査で潰瘍などほかの原因が見当たらないことが目安となります。しかし、機能性ディスペプシアと診断された段階では、すでに慢性化している可能性が高いので、そうなる前に受診することが大切です。

ストレスが機能性ディスペプシアを悪化させる

機能性ディスペプシアでは、ストレスの影響も大きいことが知られています。しかし、自分のストレスには気づきにくいため、知らないうちに症状を悪化させてしまいがちです。実際に機能性ディスペプシアと診断された方には、仕事や人間関係などで長期間にわたってストレスをかかえ、うつ状態や不安状態になっているケースも少なくありません。
ストレスは、かつては胃もたれやみぞおち痛の主な原因とされていました。しかし現在では、直接的な原因というよりも、症状を悪化させる要因と考えられています。つまり、加齢などによる胃の機能低下があるところに、過度のストレスが加わると、胃の筋肉運動や消化機能がいっそう低下してしまうのです。

ストレスと消化器の関係 - ストレスホルモン

なぜストレスを受けると、胃などの消化器が影響を受けるのでしょうか。
私たちの脳はストレスを感じ取ると、ストレスホルモン(副腎皮質刺激ホルモンなど)の分泌をうながします。それはストレスに負けないための生体反応なのですが、ストレスホルモンの分泌をうながす因子(副腎皮質刺激ホルモン放出因子)には、胃などの上部消化器の運動を抑制し、反対に大腸などの下部消化器の運動を活性化する作用があります。
そのためストレスが続くと、胃では胃もたれなどの機能性ディスペプシアが、そして腸では下痢や便秘などの過敏性腸症候群を起こしやすくなるのです(※1)。
こうした脳と腸との密接な関係を、「脳腸相関」といいます。ストレスを受けたときには、ほかにもカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)が分泌されますが、これらにも消化器の機能を低下させる作用があることが知られています(※2)。
私たち自身はストレスを自覚していなくても、脳は生体維持のために敏感に反応し、その副作用として胃などの消化器の機能に影響を及ぼしています。それだけに、軽い胃もたれなどの症状がみられたら、仕事や人間関係などで精神的な重荷を感じていないかどうか自分を見つめなおし、症状を悪化させないうちに積極的にストレス解消に取り組みましょう。

(※1)過敏性腸症候群では、人によって下痢、便秘、あるいはそのくり返しなどの症状がみられます。機能低下の原因となるほかの病気が見当たらない点では機能性ディスペプシアと同様なので、2つを総称して「機能性消化管障害」と呼ぶこともあります。

(※2)脳腸相関では、脳から腸への影響だけでなく、反対に腸の知覚過敏などの異常が脳に伝えられ、痛みが強く感じられるなどの影響もあります。

慢性化させないための予防法

胃もたれやみぞおち痛などの症状を慢性化させないためのポイントは、食事、運動、睡眠の3つに気を付けることです。

食事による予防

次のことを守って、胃にやさしい食事を心がけましょう。

  • よく噛んで、ゆっくり食べる(唾液には消化作用があるので、よく噛んで、ゆっくり食べると、胃の負担が軽くなります)
  • 辛い物や脂っこいものをさける(香辛料は胃の知覚過敏を引き起こしやすく、脂質は消化・吸収に時間がかかり、胃への負担が大きくなります)
  • 腹八分目にする(食べすぎは、胃の消化リズムを乱す原因となります)

運動による予防 - ストレス解消効果

運動不足が続くと、胃の機能が低下し、胃もたれなどを起こしやすく、食欲も減退します。また、運動はストレスを解消し、症状の悪化を防ぐ効果もあるので、適度の運動習慣をもつことが大切です。
有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング、自転車こぎなど)、筋肉運動(屈伸、腹筋、腕立て伏せなど)のどちらにも、ストレス解消効果があるので、自分が続けやすい運動を定期的(週に3回~4回)におこなうようにしましょう。
※自宅で、手軽にできるエクササイズ情報はこちら。「かんたん・健康エクササイズ」

睡眠による予防 - 自律神経の回復

睡眠不足が続くと、自律神経の乱れから消化機能が低下し、食欲の減退や胃もたれなどが起こりやすくなります。昼間、太陽光を浴びると、睡眠物質のメラトニンが夜間に分泌され、眠りに入る助けとなります。散歩程度でもいいので、室内に閉じこもらず、外出するようにしましょう。

機能性ディスペプシアの治療 - 症状の把握

こうした日常の注意のほかに、病院を受診するときに知っておくべきことがあります。それは、自分の症状を具体的に医師に伝えることです。
機能性ディスペプシアの場合、人によってさまざまな症状がみられるので、治療には消化促進薬のほかに消化管運動の改善薬、胃酸分泌の抑制薬、抗うつ薬・抗不安薬、漢方薬などが使われます。適切な薬が処方されないと、「薬が効かない」といって治療を中断し、症状を悪化させることになりかねません。
受診時には、いつ頃からどんな症状がみられるのか、どんなときに痛くなるのかなどの基本情報のほかに、「自分にとって一番つらい症状は何か」をきちんと医師に伝え、理解してもらうことが大切です。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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