vol.145 第3の制度「機能性表示食品」って、何?
ヘルシーライフ
2015年4月からスタートした「機能性表示食品」制度。「特定保健用食品(トクホ)」、「栄養機能食品」に続く第3の制度です。サプリメントだけでなく、野菜や果物といった生鮮食品までを含んでおり、すでに多くの商品が販売されています。では私たちは機能性表示食品をどのようにとらえればいいのでしょうか。

消費者庁に届け出るだけで健康表示が可能
機能性表示食品とトクホ、栄養機能食品は三つとも、機能性の表示ができる「保健機能食品」です。ではこの三つはどこが異なるのでしょうか。
メーカー自らの責任で科学的根拠を示す点が、機能性表示食品の特徴です。人による試験のほか、論文調査でも可能ですが、国が審査を行うわけではありません。販売60日前までに消費者庁に届け出を行い、受理されれば機能性を表示して商品を販売することができます。サプリメントだけでなく、野菜や果物などの生鮮食品、飲料や加工品も対象です。ただし、アルコールや糖質など、過剰摂取が問題となるものは除外されています。
一方トクホは、製品ごとに国が審査を行います。人による試験が必要となっているうえ、有効性や安全性に関しては、消費者委員会や食品安全委員会などが検証を行うこととなっています。トクホの認可を受ければ、機能性を表示して商品を販売できます。
栄養機能食品は、ビタミン(ビタミンA、B群、C、D、E、葉酸など)とミネラル(カルシウム、亜鉛、マグネシウムなど)の20成分が対象です。1日当たりの摂取目安量に含まれる栄養成分量が、国の定めた上・下限値の規格基準に適合していれば、国への許可申請や届け出をする必要はなく、栄養成分の機能を表示できます。例えば「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です」といった表示です。また、2015年5月からは生鮮食品も対象となっています。
機能性表示食品は、体のどこにいいかを表示することができます。また、その根拠となった試験の結果や論文などのデータが、消費者庁のウェブサイトで公開されます。
しかし、病気の治療や予防にかかわる表現、たとえば「糖尿病の人に」「高血圧の人に」といった表示はできません。また、健康の維持や増進の範囲を超えた表現、たとえば「肉体改造」「増毛」「美白」といった表示も認められていません。さらに、科学的根拠に基づき説明されていない機能性に関する表現も禁じられています。
申請が受理された商品は、パッケージに「機能性表示食品」と届出番号を明示し、成分名と体のどの部分の健康を保つ機能があるかが表示されます。また、メーカーの連絡先や1日の摂取量目安に加えて「特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別の審査を受けたものではありません」という注意書きも加えられます。ちなみに消費者庁のウェブサイトでは、届出番号ごとに機能性などの情報を確認できるようにされています。
既に発売されたある商品では「肌の水分保持に役立ち、乾燥を緩和する」という表現が使用されています。機能性表示食品制度がスタートする前には、同じ商品には「うるおい力」と表示されていました。また別の商品では「手元のピント調節力に」という表現が使われている例があります。従来は「中高年の見る健康に」という表示でした。 以前はサプリメントや健康食品を販売する小売店から「あいまいな表現しか許されていないため、何に効くのかわからない」という声が多かったのに対して、機能性表示食品制度によって「商品の特徴がわかりやすくなった」といわれています。
機能性表示食品とトクホでは、どう表示が異なる?
では機能性表示食品において、ほかにどのような表示が考えられるのでしょうか。
「お腹の調子を整える」
「脂肪の吸収を抑える」
「糖の吸収をおだやかにする」
「ぐっすりとした眠りとさわやかな目覚めをサポート」
「血圧が高めの方の健康に役立つ」
「骨の健康維持に役立つ」
「目の調子を整える」
「肝臓の機能をサポートする」…
これらは、届け出を考えているメーカーの案、またはすでに発売されている商品の例です。実はこの表示は、機能性表示食品とトクホでは、ほとんど差がありません。
トクホは薬ではないため、病名や治療にかかわる表示はできませんでした。しかし2005年に新設された「疾病リスク低減表示」では、カルシウムと葉酸に関して、下記の表現を使用することができるようになりました。
「この食品はカルシウムを豊富に含みます。日頃の運動と適切な量のカルシウムを含む健康的な食生活は、若い女性が健全な骨の健康を維持し、歳をとってからの骨粗鬆症になるリスクを低減するかもしれません」※
「この食品は葉酸を豊富に含みます。適切な量の葉酸を含む健康的な食事は、女性にとって、二分脊椎などの神経管閉鎖障害を持つ子どもが生まれるリスクを低減するかもしれません」※
ただ、この二つ以外に関しては、機能性表示食品とトクホで表示できる内容にほとんど差がないのです。
トクホは許可までに4年前後かかり、平均で1億円前後の経費がかかるといわれています。これは臨床試験など、人による試験が必要だからです。そのため、機能性表示食品は、トクホとして認可されるまでの「つなぎ」としての役割を期待するメーカーもあるようです。
しかし、国の認可を受けるトクホと、届け出だけの機能性表示食品で、ほとんど同じ表示ができることに対して疑問の声があることも事実です。また、安全性に対しての審査がないことも「機能性表示食品は信頼できるのか」といった報道につながっています。
※いずれもe-ヘルスネット(厚生労働省)
栄養はバランスが重要
健康な体を維持するためには、バランスのとれた食事で栄養を摂取することが一番です。炭水化物、タンパク質、脂質の三大栄養素に加えてビタミン、ミネラル、食物繊維、さらに水分は、人間の体に欠かせません。いくら機能性表示食品の表示が自分に合いそうだからといって、それだけに偏るのは問題です。
例えば骨を形成するのに重要なカルシウムも、それだけでは体の中で有効に働きません。リンやナトリウム、各種ビタミン(A、C、D、E、K)、マグネシウム、亜鉛などがサポートすることで、健康な骨が形成されるのです。
肌を健康に保つためにはコラーゲンとヒアルロン酸、エラスチンの三つが必要といわれています。皮膚にハリを与えるのがコラーゲンです。そのコラーゲンを体内で合成するには、プロリンをはじめとした数種類のアミノ酸だけでなく、ビタミンCと亜鉛が必要です。保湿力によって肌のみずみずしさを保つのがヒアルロン酸です。そのヒアルロン酸を体内で合成するには、アミノ酸に加えてマグネシウムと亜鉛が不可欠とされています。また、弾力のある肌に欠かせないのがエラスチンです。エラスチンの合成についてはまだ明らかになっていないことが多いのですが、アミノ酸とビタミンB2が必要といわれています。これらに加えてビタミンAやビタミンEも、肌を若々しく保つのに重要な栄養素です。
つまり、骨や肌を健康に保つためには、多くの栄養素が必要ということです。
最近では、医師や専門家から「ヨーグルトを食べるなら、複数のメーカーのものを交互に食べる方がいい」という意見が多くみられます。ヨーグルトはメーカーによって、含まれている乳酸菌などの種類が異なります。同じメーカーでも、種類によって異なる場合もあります。そのため腸内環境を整えるには、一つの種類の菌だけでなく、多くの種類の菌を摂取したほうがいいということです。
これらのことからわかるように、私たちの体にはさまざまな栄養素が必要です。まずは毎日の食事の主食、主菜、副菜でバランスをとり、複数の素材を摂取することが基本と考えましょう。そのうえで、同じ野菜や果物を食べるなら「自分が必要と思われる機能性が表示されたものに代える」、そして「サプリメントは補助として加える」。そんな考え方をお勧めします。
機能性表示食品の今後は?
アメリカでは1994年に、機能性表示食品制度と似た「ダイエタリー・サプリメント制度」が導入されています。法律で、サプリメントとは「ビタミン、ミネラル、ハーブ、アミノ酸のいずれかを含み、食事を補うことを目的とするもの」と定義し、メーカーが自己責任で効果を実証し、アメリカ食品医薬品局に届け出るだけで効果を表示することができるものです。この制度の導入後、サプリメント市場は急激に拡大しました。
しかしアメリカ保健福祉省が2012年、127商品を調査したところ、「ほとんどの商品の科学的裏付けが不十分だった」と報道されたこともあります。
機能性表示食品は、このアメリカの制度を参考にしてつくられたといわれています。2014年12月に開催された消費者委員会で、科学的根拠が十分でない届け出に対する問題が指摘されています。また、論文の中でも「効果に肯定的なもの」ばかりを集め、「否定的なもの」を排除して届け出が行われた場合の対処法を疑問視する意見もあります。さらには十分な科学的根拠によってパッケージに機能性を表示したとしても、広告の表現が誇大になるケースがないのかを危惧する声も聞こえます。
「食品の新たな機能性表示制度に関する検討会報告書」では、2年以内に制度の見直しを行うこととされています。しかし、期限を区切るのではなく、問題が現れた場合にはすぐ対処を行うことが求められます。
機能性表示食品を選ぶ場合には「信頼できるメーカーの商品を選ぶ」「メーカーのホームページで根拠となる資料を確認する」ことを実行することがポイントです。そのうえで、摂取し続けて体調に変化はないか、急激な体重などの変動はないか、といった確認を行うことが重要です。体調に異変がある場合には摂取を中止して、医師に相談することが必要です。また、医薬品を使用している期間に機能性表示食品を摂取しようという場合には、医師や薬剤師に相談しましょう。これらのことを念頭に置いて、機能性表示食品を有効活用することがいいのではないでしょうか。
※このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。