2016.06.10

vol.156 カビが引き起こす怖い病気

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Vol.156 カビが引き起こす怖い病気

梅雨など湿気の多い時期にはカビが繁殖しがちです。カビは食品を腐敗させるだけでなく、実は病気も引き起こします。最近では、こういったカビによる病気が増えているといわれています。たかがカビ、と侮れない理由は? どんなカビが危険なのか? カビ対策も含めてお伝えします。

肺の病気の原因となるカビは、日本酒を造るのに欠かせないコウジカビの仲間

カビは専門用語では真菌(または菌類)といいます。カビというと、食品を腐らせるもの、汚いもの、という印象を持っている人が多いでしょう。しかし、真菌のなかには私たちの生活に欠かせない働きを持つものがあります。
アスペルギルス属という真菌があります。このなかには「アスペルギルス・オリゼー」というニホンコウジカビがあり、日本酒や味噌、醤油、鰹節などの発酵に昔から活用されてきました。また、味噌や醤油の発酵には「アスペルギルス・ソエー」という別の種類のコウジカビも使われています。さらに、「アスペルギルス・アワモリ」という種類は、沖縄で泡盛をつくるときに利用されているコウジカビです。このように、真菌は私たちの食生活をとても豊かなものにしてくれるものです。

しかし、同じアスペルギルス属であっても「アスペルギルス・フミガーツス」は病気を引き起こすため、気をつけなければいけない真菌です。土壌や空中、穀物など私たちの周りに広く生息しているのですが、空中に漂っている胞子を吸い込んで感染してしまうと、肺や気管支に異常をきたす肺アスペルギルス症となる恐れがあります。
主な症状はせきや喀痰、胸痛、呼吸困難などですが、肺の空洞に真菌の塊ができてしまう肺アスペルギローマを起こすことも少なくありません。免疫抑制剤やステロイドを使用している場合などには、真菌が血管内に侵入してさまざまな臓器を侵してしまう「侵襲性肺アスペルギルス症」となることもあります。肺だけでなく、副鼻腔炎や外耳道炎を起こしたりする場合もあるとされています。また、穀類などで繁殖すると、カビ毒を生み出したりもします。
このアスペルギルス・フミガーツスによる病気が、近年増えていることが報告されています。ただし、症例は多いのですが、治療法もかなり確立されているため、早めの治療を行えばほとんどの場合、治癒します。この真菌は、エアコン内部で繁殖するケースがあることが報告されていますので、室内に胞子をまき散らさないように、エアコンの掃除を欠かさないようにしましょう。
また、穀類や豆類、ナッツ類などの食品で繁殖する「アスペルギルス・フラブス」という種類もあり、食品を腐敗させてしまうだけでなく、アフラトキシンというカビ毒を生み出すことが知られています。ちなみに、蚕を全滅させたりするほどの被害をもたらすのもこの真菌です。

一般的にカビと呼ばれているものは、穀類や果物で糸状に繁殖し、さまざまな色の集まりを作り、食品を腐敗させてしまいます。また、湿気の多い室内にも生えてしまい、押し入れや浴室の壁を変色させたりします。
しかし、穀類や果物で繁殖し、発酵を行ってくれるのも真菌です。食品を腐敗させるのではなく、発酵させて私たちの食生活を豊かにしてくれるのです。そのため、この種類の真菌は酵母と呼ばれています。これは、真菌には有機物を分解する働きがあるからです。その働きの結果が腐敗か発酵かの違いだけで、真菌は自分の持つ個性的な働きを行っているにすぎないのです。同じ真菌であっても、腐敗させる嫌われものがカビ、発酵を行う優れものが酵母というわけです。アスペルギルス属には、この両方が含まれているのです。
ちなみに、真菌にはもう一つ別の種類がありますが、それはキノコです。

室内だけでなく屋外でも注意が必要なカビ

浴室や台所などにみられる黒いカビには要注意です。排水溝のふたに付着している黒くドロドロしたカビは、人間に感染する可能性があるのです。この「エクソフィアラ」という黒色真菌は、皮膚の膿瘍や潰瘍を引き起こすだけでなく、肝臓や脳の膿瘍を形成するとされており、脳を侵されて死に至る例もあるといわれています。浴室の排水溝などだけではなく、加湿器の内部からエクソフィアラが見つかった例もあります。そしてエクソフィアラによる病気は増え続けていますので、湿気の多い場所は、なおさら清潔に保つ必要があるのです。

普段は土壌や植物に寄生している「フザリウム・ベルチシリオイデス」も、人間に感染する真菌です。目の角膜に感染した場合、痛みや充血を起こすことがあり、角膜真菌症にかかってしまいます。また、白血病やエイズ患者の場合は、肺炎や敗血症を引き起こすことがあるとされています。室内では、パソコンやテレビの裏側にこの真菌が潜んでいる場合もあります。静電気が発生する場所で増殖するケースがあるため、電気製品周辺の清掃は、慎重に、丁寧に行わなければなりません。
ところで、2016年に「バナナが枯れたり黒ずんだりして、地域によっては深刻な被害が及んでいる」「このままではスーパーマーケットからバナナが消えてしまうのでは?」というニュースをご覧になった方も多いでしょう。これは「新パナマ病」と呼ばれ、カビが根からバナナの木に感染し、枯らしてしまう病気です。そもそも1950~60年代に、当時のバナナの主品種だったグロス・ミッシェル種が「パナマ病」によってほぼ全滅しました。パナマ病の原因となった真菌が「フザリウム」の一種です。その後、パナマ病に強いキャベンディッシュというバナナの品種が見つかり、世界中に広がりました。しかし2016年に再び「バナナの危機」が心配されているのです。この「新パナマ病」の原因となっているのもフザリウムの一種だとされており、フザリウムの変異体だという説もあるのです。

室内だけでなく、屋外で感染してしまうケースが増えている真菌もあります。それが「クリプトコッカス」です。自然界に広く分布している真菌ですが、とくに鳩の糞に多く含まれていることが知られており、公園の砂場などにも多く存在しているといわれています。それが乾燥して舞い上がり、空中を漂っている胞子を吸い込んでしまうと感染してしまうのです。弱毒性のため、通常は健康な人が発症することは多くはありません。しかし免疫力が落ちている人は、クリプトコッカス症を引き起こすことがあります。
ちなみにこの病気を引き起こす原因となる真菌は、「クリプトコッカス・ネオフォルマンス」が大半を占めているとされています。肺や髄膜が侵される場合が多く、特に肺の病変では空洞ができてしまう危険性が指摘されています。また、なかには中枢神経や脳に病巣ができてしまったという報告もあるため、注意が必要なのです。

植物や材木などに触れる機会が多い場合に、気をつけなければならないのが「スポロトリックス・シェンキー」です。皮膚の傷口から侵入し、皮膚に炎症を起こしたりするからです。皮膚の炎症だけでなく、ごくまれに肺や脳などを侵すこともあるといいます。世界中に広く生息する真菌ですが、日本のように温暖多湿な地域に多く見られますので、庭仕事をする際には、長ズボンをはき、手袋をするといった防御をお勧めします。

カビによる病気はほかにも!――そして細菌やウイルスとはどう違う?

口や膣、皮膚の表面に斑点が生じたり、かゆみや痛みを感じるカンジダ症は、「カンジダ・アルビカンス」などの真菌が起こす病気で、以前からよく知られています。カンジダ属の多くは人間の口や消化管、膣、皮膚などに常在しており、通常は無害なのですが、免疫力が低下した場合にカンジダ症となる場合があるのです。とくに抗生物質を使用している人や糖尿病、がんの患者、さらには妊娠中の人の場合は、気管支炎や肺炎、腸炎、敗血症などを引き起こすことがあり、治癒するのに長い期間を要する場合があります。

ムーコル症もカンジダ症と並んで、以前からよく知られている病気です。「ケカビ目」の真菌によってつくられた胞子を吸い込むことで感染し、鼻や副鼻腔に炎症を起こすほか、眼や肺、脳を侵すことがあります。肺に病巣ができると全身に転移するケースがあるので、気をつけなければなりません。糖尿病などによって免疫が落ちている人に併発しやすく、命にもかかわる感染症です。

ほかに、白癬菌など皮膚を侵す真菌がありますが、このように、カビはさまざまな病気の原因となります。同じように病気の原因となるものに細菌やウイルスがありますが、これらはどこが違うのでしょうか。
真菌のなかでもカビは人に感染する場合、細胞に定着して菌糸が伸びたり枝分かれして成長していきます。酵母の場合はカビとちょっと異なり、芽が出たり分裂したりして増殖します。真菌はDNAが核膜で包まれており、細胞の中に細胞核がある生物で、真核生物と呼ばれています。細胞壁があるため、昔は植物の系統に属するとされていたこともありますが、動物、植物のどちらとも異なる生物です。
似たようなものと思われがちですが、細菌は真菌と異なります。細菌は人の体内に定着したあと細胞分裂を繰り返して増殖します。細胞内に侵入するか、毒素を排出して細胞を傷つけたりして人に感染していきます。細菌には細胞壁はありますが、そのDNAは核膜で包まれておらず、細胞核も持っていません。バクテリアとも呼ばれており、よく知られている細菌は大腸菌やコレラ菌、サルモネラ菌などで、さまざまな病気を引き起こすものです。

ちなみにウイルスは自分では増殖できず、人間の細胞内に入り込んで増殖します。ウイルスは基本的にはたんぱく質と核酸からできており、いわば、生物と非生物の中間にあるものだとされています。生物のDNAなどから進化したものだと考えられており、遺伝子はDNAかRNAのどちらか片方です。ウイルスでよく知られているのがインフルエンザウイルスやノロウイルス、コロナウイルスなどです。これらは感染症が流行するたびによく耳にしますが、ウイルスは人間の細胞内に寄生しているため、強力な治療薬がなく、予防のワクチンだけに頼らざるを得ないのが現状です。

では、カビを防ぐためにはどうすればいい?

多くのカビは湿度60%程度で発生し、約80%以上になると増殖します。水分がなければカビは定着できないため、浴室など水回りや窓サッシなどは、水滴を除去するなどの対策が必要です。
入浴後には浴室の水滴を拭き取り、換気扇を稼働させるようにしましょう。窓サッシはガラスだけでなく、金属部分も拭き取ることが大切です。台所や洗面所の排水溝はこまめに掃除をすることが一番です。
冷房を使用中のエアコン内部は、湿度が90%以上に達します。水滴も付着してしまうため、エアコン本体とフィルターの掃除はカビ対策に必須です。また、加湿器もカビの温床となる場合がありますので、きれいに掃除をしましょう。そうでないと、空気の流れとともにカビを室内中にまき散らしてしまう危険性があるからです。

カビが生えてしまった場合、カビ取りスプレーを使うときにも注意が必要です。直接スプレーを吹き付けてしまうと、その勢いで空気中に胞子をまき散らしてしまうことがあるからです。例えば古くなったタオルやペーパー類にカビ取り剤を吹き付け、カビ部分を覆うようにすれば、胞子の拡散をかなり防ぐことができます。
塩素系の漂白剤を使用するのも有効です。安全のために、マスクをかけ、ゴム手袋などで防御しながら使用しましょう。もちろん、複数の薬剤を混ぜると有毒ガスを発生させる恐れがありますので厳禁です。また、カビ取り剤や塩素系薬剤のなかには、2~3年で効果が失われるものもあるという専門家もいますので、買い置きはせずに、「使用上の注意」を確認して使うようにしましょう。

晴天の日には、窓を開けて室内の湿った空気を排出するようにしましょう。特に屋外の湿度が低い場合は、押入れも開けて換気をすることをお勧めします。風が弱い日の場合は、扇風機を活用するなどの方法も有効です。例えば押入れを背に扇風機を稼働させれば、普段より奥の空気を循環させることができます。
カビが増殖してから対策を行うより、できるだけカビが生えない環境をつくることが一番です。そのためには、湿気をできるだけ抑えることがカビ対策の基本です。
いずれにせよ「たかがカビ」とは侮れません。私たちの周辺には常にカビが舞っています。ちょっと免疫力が落ちた時に、カビが原因となって病気にならないとも限りません。だからこそ、日頃の対策が重要なのです。

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