vol.172 私たちの体を守る「微量ミネラル」の重要性
ヘルシーライフ
5大栄養素の一つ、ミネラルには多くの種類がありますが、なかでも見逃されがちなのが「微量ミネラル」と呼ばれるものです。わずかな量でも、私たちの体の機能を正常に働かせるのに大きな役割を担っているため、私たちの体に必須なものとされています。その重要性とはいったいどんなところにあるのでしょうか。
微量ミネラルって、ほかのミネラルとどう違うの?
食物中に含まれている体に必須の成分のうち、炭水化物、タンパク質、脂質を合わせて3大栄養素といいます。そしてこれにビタミンとミネラルを加えたものが5大栄養素です。
私たちの体に必須とされるミネラルは16種類あり、1日の摂取量がおよそ100mg以上の「主要ミネラル(多量ミネラル)」と、100mp未満の「微量ミネラル」に分類することがあります※1。主要ミネラルはカルシウム、リン、イオウ、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、塩素の7種類、微量ミネラルは鉄、ヨウ素、亜鉛、銅、セレン、マンガン、コバルト、モリブデン、クロムの9種類です。厚生労働省が作成した「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、1日の摂取量は、主要ミネラルの一つであるカルシウムなら成人男性で650~800mp、成人女性で650mpが推奨されています。一方、微量ミネラルの一つである鉄の推奨量は成人男性で7.0~7.5mp、成人女性で6.0(月経なし)~10.5(月経あり)mp、モリブデンの推奨量は成人男女とも20~25㎍とごくわずかです※2。
そんな微量ミネラルですが、それぞれ働きが異なり、私たちの体の機能を正常に働かせることに貢献しています。
微量ミネラルの中で、特に女性が気を付けてほしいのが鉄です。月経で血液が失われてしまうため、貧血につながりやすいことはご存じでしょう。しかも、貧血のなかで一番多いのが鉄欠乏による貧血です。鉄が不足すると無力感や食欲不振などが起こることがあります。
鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があり、動物性食品のレバーや肉、魚類に多く含まれるヘム鉄は、卵や植物性食品(野菜や海藻類)に含まれる非ヘム鉄より体内への吸収率が高いので、食事が植物性食品ばかりに偏らないようにすることが大事です。鉄は健康な人が通常の食事で過剰症となる心配はまずありませんが、サプリメントや鉄製剤は適切に利用しないと過剰摂取が起こることがありますので、医師と相談して利用するようにしましょう。
※1 国立健康・栄養研究所 「ミネラルについて」より
※2 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」より
銅やコバルトも体内にあるの?
銅は鉄を吸収したり貯蔵をする際に働くほか、骨髄でヘモグロビンを産生するのにも貢献します。そのため、欠乏すると貧血や成長障害などが起こることがありますが、通常の食事をしていれば銅が不足することはありません。しかし、亜鉛を大量に摂取してしまうと銅の吸収が妨げられることがあるという見解がありますので亜鉛の取り過ぎには注意しましょう。
コバルトはビタミンB12の構成成分で、赤血球やヘモグロビンが生成される際に鉄の吸収を促進する働きも持っているといわれています。コバルトは、動物性食品などビタミンB12を含む食品に含まれていますが、納豆ともやしなど一部の食品以外の植物性食品には、あまり含まれていません。しかし、健康な人が通常の食生活を送っていれば、欠乏症や過剰症はほとんど起こらないとされています。これらのことからわかるように、貧血といっても、鉄だけを摂取すれば治るとは限りません。実際、鉄を補充しても貧血が改善されなかったため、コバルトは必須のミネラルとされています。また、ある栄養素が、ほかの栄養素の吸収を促進したり阻害したりすることがありますので、動物性食品や植物性食品だけに偏らないよう、バランスのとれた食事をとることが重要です。
亜鉛不足が招くトラブル
亜鉛は発育や成長を助けたり、インスリンを合成する際にも不可欠な微量ミネラルで、皮膚代謝や糖代謝、免疫にもかかわっています。そして、欠乏すると味覚障害や皮膚炎、食欲不振、免疫機能の低下などを引き起こすことがあります。
亜鉛は牡蠣(かき)に豊富に含まれているほか、肉類や魚介類、豆類、種実類、穀物など多くの食品に含まれています。味噌(みそ)にも多く含まれているので、塩分の取り過ぎには気をつけながら、味噌を調理に活用するのも一つの方法です。これらの亜鉛を含む食材を食べても、普段の食事だけで亜鉛が過剰になることはありません。しかし、薬剤として亜鉛を継続的に過剰摂取した場合には、胃の障害や免疫障害、神経症状が出ることがあるほか、銅や鉄の吸収を妨げることがあります。
体内の過酸化物質から細胞を守ってくれるのがセレンです。セレンは強い抗酸化作用をもつグルタチオンペルオキシダーゼなどの酵素の構成成分です。体内に吸収されやすいため、欠乏の心配はほとんどないとされていますが、土壌に含まれるセレンの量が低い地域では、克山病という心筋症やカシン・ベック症という関節症の一種などが見られ、セレン欠乏の関与が疑われています。その地域は中国北東部やシベリアの一部地域、ニュージーランドなどですが、類似の症例が日本でも報告されていますので、安心はできません。セレンは毒性が強いとされているので、サプリメントなどでの過剰な摂取はリスクが伴います。脱毛や爪の変形、胃腸障害、神経障害、心筋梗塞などが起こる心配があるのです。
ほかの微量ミネラルの働きとは
ここまでで触れた成分以外のミネラルのマンガン、モリブデン、クロムに関しては、健康な人が通常の食事をしていれば、欠乏症や過剰症はほとんど見られないとされています。しかし、例外なのはヨウ素です。日本人の食生活では、海藻類などヨウ素が含まれている食品を取る機会が多くあります。そのため、海藻などを過剰に食べ続けた場合などに、甲状腺機能低下や甲状腺腫になった事例が報告されています※3。ちなみに、ヨウ素が欠乏しても甲状腺機能低下が起こるほか、妊娠中に欠乏すると、死産や流産、胎児の先天異常などを招く心配があるので注意しましょう。
酵素の働きをサポートするのに欠かせないのがマンガンです。マンガンスーパーオキシドジスムターゼなどの酵素の構成成分として、抗酸化作用にかかわっているほか、骨代謝、糖や脂質の代謝などにかかわっています。
いくつかの酵素の構成成分となっているモリブデンも、糖や脂質の代謝などにかかわっているほか、体内で尿酸を作り出すために必要な酵素の働きを助けているとされています。
クロムはインスリンの働きを活性化したり、糖質やコレステロール、たんぱく質の代謝にもかかわっているとされていますが、糖代謝に関してクロム以外の働きによるものだという説もあります。
このように、たとえわずかな量であっても体に必須な微量ミネラル。食事のバランスがどれほど重要か、心得ておきましょう。
※3 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」より
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