vol.182 脱水症予防は「渇いてからでは遅い」の意識を徹底

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ヘルシーライフ

平成 29 年5月から9月の全国における熱中症による救急搬送人員数の累計は52,984 人で、前年同期間の 50,412 人と比べると 2,572 人増となりました。夏本番の8月は、熱中症の原因となる脱水症の予防対策を再確認しておきましょう。
のどの渇きはすでに「脱水」が始まっている証拠。早めの対策が必要です。
運動中に喉の渇きを感じてから飲むという水分補給の仕方では、脱水状態に陥りやすく、熱中症の原因になるだけでなく、パフォーマンスが低下する可能性があることが、米アーカンソー大学水分補給科学研究所が今年3月に発表した研究により明らかになりました(※2)。健康障害だけでなく、運動のパフォーマンスも下げる脱水症。乳幼児から成人まですべての年代において、「渇く前に飲む」を徹底し、脱水症に注意しましょう。
特に、高齢者は脱水症予防のサポートも必要です。高齢者の「かくれ脱水」予防や、薬を服用している人の脱水症のリスクなども紹介します。

vol.182 脱水症予防は「渇いてからでは遅い」の意識を徹底

水分をたった20%失っただけで死亡の恐れがある

人間の体の約60%は水分でつくられています。例えば、体重が60Kgある成人男性なら36Kgが水分です(※3)。それだけ水分は体を維持することに必要で、足りなくなると生命に関わることもあるのです。
 体から5%水分を失うと脱水症状や熱中症症状が現れ、10%失うと筋肉のけいれんや循環不全が起こります。さらに、20%失うと死に至ってしまいます(※3)。
 普通に生活をしているだけでも、尿や便、呼吸や汗で1日に2.5Lもの水分が失われています。一方で、食事で1.0L、体内で0.3Lほどつくられています。しかし、失った水分の補給には足りず、1.2Lは飲み水として補給しなくてはなりません(※3)。普通の生活で1.2Lですから、運動を行ったり、屋外で活動をして汗をかいたりしたら、さらに補給が必要となります。
 夏はビールを飲んで水分補給をしようと考える方もいるかもしれませんが、それはNG。アルコールには利尿作用があり、通常より尿の量を増やしてしまいます。例えば、ビールを10本飲んだとしたら11本分が尿として排出され、逆に脱水を促してしまいます(※3)。多量のカフェインも同様に利尿作用があり、夏に好まれるアイスコーヒーなどカフェインが含まれる飲み物には注意しましょう。
 また、降圧剤、利尿薬、緩下剤(比較的作用が緩やかな下剤)、または便秘治療薬を服用している場合は、脱水症を起こしやすいとされているので、水分補給をより心がけましょう。(※4)。

高齢者の「かくれ脱水」に注意しよう

高齢者は、加齢による体内総水分量の減少、腎機能低下、口渇中枢機能低下など、さまざまな原因で脱水症状を起こしやすいことが分かっています(※5)。生理学的な要因だけでなく、頻尿や尿失禁を心配して、自分から飲む水の量を制限したり、食欲が衰え食事から取る水分量が少なくなったりなどの、生活における水分摂取の減少も脱水の原因となります。
 さらに、高齢になると体内水分量の減少を自覚しにくいため、自力で水分摂取のコントロールを行うことが困難であると考えられています(※5)。
自覚症状がないにもかかわらず脱水状態であることを「かくれ脱水」といい、高齢者のかくれ脱水の発症リスクは高く、家庭で暮らす健康な70歳以上の3割がかくれ脱水であったという研究データがあります(※6)。特に気をつけたいのは家庭で暮らす健康な高齢者です。脱水症のリスクは、介護施設の高齢者より高いと報告されています(※5)。
高齢者の中には、「水をたくさん飲むと膀胱炎になりやすい、熱がでやすい」など間違った認識をもっている人もおり(※5)、脱水予防の正しい知識の普及など教育的支援の必要性も高まっています。

1日あたり最低でも1.2Lを目安に水を飲もう

脱水症を予防するには、1日あたり最低でも1.2Lを目安に、のどが渇く前からこまめに水分補給をする習慣をつけましょう(※7)。渇きを感じてからではなく、渇きを感じる前に水分を取ることが重要です。
1.2Lとは大きいペットボトルほぼ1本(1~1.5L)程度、小さいペットボトル(500ml)なら2~3本程度、コップ(200ml)なら6杯です。
飲み物は冷たい方が、体内での吸収がよくなり体を冷やす効果が期待できます(※7)。
 特に高齢者や子どもがいる家庭では、水分をこまめに少しずつ飲むようにサポートしてあげるといいでしょう。また、大量に汗をかいたときは、経口補水液やスポーツドリンクなどで塩分も補給してください。高血圧や慢性腎臓病など塩分摂取に注意が必要な場合でも、汗をかいた分だけ塩分を補うことは問題ないと考えられています(※7)。ただし大量に飲むことは控え、こまめに少量ずつ取るようにしましょう。
 また、入浴中や就寝中はたくさん汗をかき、水分が不足しがちです。「入浴後」と「起床時」には、水を1杯飲むという習慣をつけるといいでしょう。

※1 総務省消防庁「救急搬送状況 熱中症情報」

※2 「Medicine and Science in Sports and Exercise」2018年3月5日オンライン版

※3 厚生労働省後援「健康のため水を飲もう」推進委員会資料

※4 日老医誌 2015:52:359-366

※5 山陽論叢 第21巻(2014)

※6 日本健康栄養システム学会会誌 2003;3:225-234

※7 NHKテキスト「きょうの健康」2018年7月号

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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