2019.10.10

vol.196 風邪の季節に備えて、薬剤耐性について知ろう!

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Vol.196 風邪の季節に備えて、薬剤耐性について知ろう!

薬剤耐性をご存知ですか? 薬剤耐性とは抗菌薬の使用により細菌が変化して、抗菌薬が効きにくくなる、または効かなくなることです。抗菌薬とは細菌を壊したり増えるのを抑えたりする薬のことで、微生物がつくった薬のことを抗生物質や抗生剤ともいいます。現在、薬剤耐性によって世界では年間70万人が死亡しています。国連は、このままでは2050年までには薬剤耐性によって年に1000万人が死亡する事態となり、がんによる死亡者数を超えると予想し警告を発しています。(※1) 薬剤耐性について、風邪の季節が始まる前に、私たちができることを知っておきましょう。

身近に潜む薬剤耐性菌の影響

抗菌薬が効きにくい、または効かない菌のことを薬剤耐性菌といいます。細菌は抗菌薬から生き延びるためにさまざまな手段を試みます。例えば、自身を覆っている膜を変化させて薬の流入を防ぐ、細菌内に入ってきた抗菌薬を外にくみ出してしまう、細菌内で抗菌薬が作用する部分を変化させる、化学反応で分解してしまう、バイオフィルムを形成するなどの方法があります。(※2)このようにして耐性を獲得した細菌は、世界各国で発生し、わが国でも報告されています。

国立病院機構大阪医療センターにおいて、薬剤耐性菌であるMBL(メタロベータラクタマーゼ)産生腸内細菌に112名が感染し、因果関係のありうる死亡例が20例(2010年7月~2014年3月)という近年で最大の感染報告がありました。(※3)MBL菌はベータラクタマーゼという酵素を産生し抗菌薬を分解する薬剤耐性菌です。

MBL菌は健康な人に感染しても感染症を発症することはありませんが、大きな手術の後や抗がん剤治療などを行っていて抵抗力が落ちているときは、感染症を発症し、死に至ることがあります。(※4)

同じくベータラクタマーゼを産生するESBL菌という薬剤耐性菌があります。感染すると、この菌による膀胱(ぼうこう)炎にかかった場合、薬が効かなくなる可能性があります。膀胱炎は、主に大腸菌が膀胱に入ることで発症しますが、ESBL菌の大腸菌により膀胱炎にかかると薬が効かなくなり、症状が長引くだけでなく腎盂腎炎(じんうじんえん)など合併症の危険も伴います。ESBL菌は、肺炎桿菌(かんきん)からも発見され、感染すると薬の効かない肺炎にかかる可能性があります。(※5)

抗菌薬を正しく理解して飲む

薬剤耐性菌は、抗菌薬が世の中に普及し始めた1940年代から次々と見付かるようになり、その後急速に拡散しています。ついに1993年には、これまで耐性菌への最終兵器的な存在であったカルバペネム系抗菌薬に対しても耐性をもつ悪夢の細菌も発見されてしまいました。(※2)

さまざまな病原菌で薬剤耐性菌が発見されており、中でも腸内細菌の薬剤耐性菌が問題視されています。先ほどのMBL菌もESBL菌も腸内細菌から発見されています。

耐性を獲得しようとする細菌は、自分が持っている本来の能力を一部変化させることにエネルギーを費やすため、細々と生きていることが多いのです。ほかに多数派の細菌が活躍している場合には、少数派の細々とした活動は目立ちにくくなっています。

しかし、多数派がある日突然、抗菌薬によってなくなってしまったらどうでしょうか。抗菌薬投与により大多数の細菌がやられてしまうと、抗菌薬に対する耐性を得ていた少数派の細菌は、伸び伸びとどんどん増えることができるようになります。

抗菌薬の投与によって、薬剤耐性菌が体内で発生し増えてしまう場合のほか、食べ物から薬耐性菌を摂取してしまうことがあります。主にアジア圏の海外旅行などによって、薬剤耐性菌に感染する可能性が示唆されています。(※4)

薬剤耐性菌を発生させ、感染を広げないためには、抗菌薬を正しく使うことが大切です。医師に処方された抗菌薬は用法通り飲み、途中でやめないようにしましょう。薬剤耐性菌の中には十分な量であれば倒せる菌もいます。1日3回のところを1回にしたり、中途半端でやめてしまうことで、薬剤耐性菌が生き残り増えてくる可能性が高くなります。(※2)

また、余った抗菌薬を人にあげたりもらったりするのもやめましょう。自己判断で服用するのは薬剤耐性菌の発生につながります。本当に必要かどうかは医師の判断に任せることが重要です。

風邪など抗菌薬を必要としない病気でも「念のため」と処方してもらうことがあるようですが、抗菌薬を医師に求めないようにすることも大切です。そもそも風邪はほとんどがウイルスが原因であり、抗菌薬は効きません。(※2)

風邪をひかない、うつさないことが予防策

薬剤耐性菌を産生、広めないために、私たちができることは抗菌薬のことを正しく知ることと用法を守ること、そして風邪など感染症を予防することです。

私たちの手は、さまざまな感染症を運んでいます。手洗いは、日々の生活の中でできる、極めて有効な感染対策なのです。(※2)感染症の原因となる細菌やウイルスの多くは、まずは手に付着します。その手で鼻や口などに触れると、その細菌やウイルスが体内に侵入し、感染が成立します。また、細菌やウイルスの付いた手でさまざまなものに触れ、周囲の人がそれらに触れることで、感染が広がっていきます。手を洗うことで、手に付いた細菌やウイルスが体に侵入するのを防ぐだけでなく、周りの人に感染を広げることを防ぐこともできるのです。

そして、感染症にかからないように抵抗力を付けることも大切です。十分な睡眠、栄養バランスのとれた食事、適度な運動を行い、風邪を寄せつけない体を保つことが重要です。

(※1)https://news.un.org/en/story/2019/04/1037471
No Time to Wait: Securing the future from drug-resistant infections
Report to the Secretary-General of the United Nations April 2019

(※2)国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターホームページ
http://amr.ncgm.go.jp/

(※3)国立病院機構大阪医療センターにおけるメタロβ-ラクタマーゼ(MBL)産生腸内細菌科の集積に関する外部報告調査会「国立病院機構大阪医療センターにおけるメタロβ-ラクタマーゼ(MBL)産生腸内細菌科の集積に関する外部報告書」

(※4)国立病院機構 大阪医療センター「メタロβラクタマーゼ産生腸内細菌科(MBL産生菌)への対応について」

(※5)国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター ニュースレター
「夏休み “菌のインバウンド”に要注意」

  • このコラムは、掲載日現在の内容となります。
    掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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