vol.134 「家庭血圧」重視が示された新・高血圧治療ガイドライン

健康・医療トピックス

高血圧は、かなり進行しても痛みなどの自覚症状がほとんどないため、健康診断で「少し血圧が高め」と指摘されたくらいでは、そのまま放置してしまう人が少なくありません。しかし、たとえ年齢が若くても、軽視は禁物です。高血圧は静かに忍び寄る「サイレントキラー(沈黙の殺人者)」。放置していると、脳、心臓、腎臓など、さまざまな臓器に障害をきたし、心疾患や脳卒中といった生命の危機にかかわる病気の引き金になります。こうした病気のリスクを減らし、健康を維持するには、しっかり血圧管理をすることが大切です。

最近では、脳心血管病の発症を予測する方法として、診察室で測る「診察室血圧」よりも家庭で測る「家庭血圧」の方が重視されています。2014年4月には、高血圧の診療方針をまとめた「高血圧治療ガイドライン」(日本高血圧学会)が5年ぶりに改訂されました。その中で、大きなポイントとして示されたのが、家庭で測定する「家庭血圧」の評価です。「診察室血圧と家庭血圧の間に診断の差がある場合、家庭血圧による診断を優先する」と記されており、それ以前よりも家庭血圧を重要視する内容になっています。

2014年の改訂では、家庭血圧測定の測定条件のうち、測定回数についても明確になりました。ガイドラインの作成にあたり、査読委員として参加した自治医科大学医学部循環器内科学の星出聡准教授は、「2009年のガイドラインでは、家庭血圧の測定回数は『1機会につき1回以上』とされ、何回測ればよいのかはっきりしないことが問題となっていました。現状では2回測定する人が多いことや、ヨーロッパのガイドラインでは『1機会に2回の測定』という記載があることから、今回の改訂では『1機会原則2回測定し、その平均をとる』ことになりました」と経緯を話します。

さらに、その5年後には「高血圧治療ガイドライン2019」が発刊。新しいガイドラインでも、引き続き家庭血圧を重視しています。また、高血圧基準は従来通りとする一方で、アメリカでの高血圧の基準値が130/80mmHgに引き下げられたことから、降圧目標は、75歳未満は130/80mmHg未満、75歳以上は140/90mmHg未満と厳格化されました。

vol.134 「家庭血圧」重視が示された新・高血圧治療ガイドライン

「診察室血圧」と「家庭血圧」から高血圧を診断

高血圧の診断は、まず外来で血圧を測定します。診察室での高血圧の診断基準は、140/90mmHg以上。診察で高血圧と評価された場合、自宅で家庭血圧を測定します。家庭血圧の診断基準は、135/85mmHg以上。起床後と就寝前に2回ずつ測定し、朝と夜それぞれの平均値を出し、家庭血圧の診断基準を超えていると高血圧と診断されます。

家庭で血圧を測定するときは、測定方法や条件を守ることが大事なポイントです。血圧の数値は座り方によっても影響を受けます。原則は背もたれのある椅子に座り、1~2分安静にしてから測定しましょう。寝たままやあぐら、正座をして測った血圧は正確ではありません。朝は起床後1時間以内。排尿後、朝食や薬を飲む前に測定します。夜は就寝前に測定し、夕食後や飲酒後、入浴後は避けます。

血圧計の正しい使い方は、こちらをご参照ください。

睡眠の質、ストレス、隠れた病気もわかる「夜間血圧」

また、新しいガイドラインでは、「血圧の日内変動や夜間血圧なども留意する」とされています。血圧は上がったり下がったり、1日のうちで変動があります。通常は起床すると上昇し活動する昼間に高くなり、夜は下がります。ところが、深夜になっても血圧が下がらないタイプや、夜になると血圧が上がるタイプが存在し、そのような夜間血圧が高い人では、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高いことがわかってきました。「私たちの研究では、夜間血圧が高い人は、正常な人と比べて高血圧による臓器障害の指標が高いことがわかりました。また、夜間血圧は夏の方が上がるという海外のデータもあります。こちらは暑くて眠れず睡眠の質が落ちることが原因といわれていますが、夜間血圧が上がる典型的な病気は、睡眠時無呼吸症候群です」と星出准教授。

睡眠時無呼吸症候群は、寝ている間に気道がふさがり、呼吸ができなくなる病気です。睡眠が十分にとれないため、昼間に眠くなることが多く、近年、この病気による事故が社会問題となっています。

さらに、家族の介護など生活環境になんらかのストレスや問題があると夜間血圧は高くなるといいます。夜間血圧は、通常の診察では見えない部分。家庭で夜間の血圧を測定することで日頃の睡眠の質やその人が抱えるストレス、隠れた病気などもわかる、と星出准教授は話します。最近では、家庭で簡便に夜間血圧を測定できる「24時間自由行動下血圧測定(ABPM)」も登場しています。

治療とともに食生活や生活習慣を見直そう

高血圧は男女ともに中高年以降に増えますが、生活習慣の影響などから30代の若い世代でも見られます。肥満や運動不足は動脈硬化を促進させ、血管が狭くなって血液が流れにくくなります。喫煙は血管を収縮させ、血圧を上げます。お酒を飲み過ぎると交感神経が活発に働き過ぎて緊張が高まり、心拍数も上がります。また、塩分の多い食事をとっていると血管中に水分が引き込まれて血液量が増え、血管を押し広げようとします。知らないうちに、体にこのような負担をかけていないでしょうか。これらの生活習慣は、すべて血圧を高くする原因となります。高血圧と診断されたら、適切な治療とともに、食生活や生活習慣を見直して血圧をコントロールすることが大切です。

治療しても効果がないときは、専門外来へ

高血圧患者さんの中には「治療をしても血圧が下がらない」という人も少なくありません。人によっては降圧薬の変更などで改善することもありますが、生活習慣を改善して、適切な種類と用量の降圧薬を飲んでも目標値まで下がらない場合は「治療抵抗性高血圧」の可能性があります。治療抵抗性高血圧は、ほかに薬を併用していたり、原因となる病気があったりする場合などに起こります。なかなか効果が出ないときは、高血圧の専門外来や専門医の診察を受けてみましょう。

なお、高血圧の最新治療として「腎交感神経焼灼術」という手術法が注目され、日本でも臨床研究が進められていましたが、現在は中断しています。「アメリカで比較試験をしたところ、安全性に問題はないが、血圧が下がる程度に差がないという結果が出たためです」(星出准教授)。腎交感神経焼灼術は、薬が効かない治療抵抗性高血圧に最も期待されている治療法。近い将来といわれていただけに、研究の再開に向けて慎重に議論されています。

監修 自治医科大学医学部 睡眠・サーカディアン循環器医学講座
内科学講座 循環器内科学部門 准教授 星出 聡先生

参考
『■NEWS 【高血圧治療ガイドライン2019公表】成人の降圧目標を130/80mmHg未満に引下げ』日本医事新報社
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=12176
『一般向け『高血圧治療ガイドライン』解説冊子』日本高血圧学会
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019_gen.pdf

更新日:2021.07.02

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