心不全・脳卒中・心臓発作はなぜ起きる?

生命維持のためには、心臓の働きによって血液を循環させ、酸素と栄養を身体の隅々まで行き渡らせる必要があります。しかし、なんらかの理由で心臓のポンプ機能がうまく機能しなくなると、さまざまな弊害が起こり、命に関わる病気や重篤な状態につながる危険性があります。

心臓の負担過多が続くと「心不全」に

心臓のポンプ機能が低下し、全身にうまく血液を送れなくなってしまう状態が「心不全」です。心不全とは、『心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気』と学会(日本循環器学会、日本心不全学会)で定義されています。その原因は、高血圧・心筋梗塞・心筋症・弁膜症・不整脈などさまざまですが、心不全は心臓に負担をかけ続けたゆえに至る終末像といえます。心不全になると、心臓からうまく血液を送り出せなくなり、体の中で酸素や栄養が足りなくなるため、さまざまな症状(動悸、息切れ、呼吸困難など)が現れてきます。
ちなみに、不整脈の一種である「心房細動」の患者さんでは、20〜30%が心不全を合併しているといわれています1)

心臓の働きが悪くなることで起こる、脳梗塞の中でも危険な「心原性脳塞栓症」

脳卒中には、脳の血管が詰まる「脳梗塞」と、脳の血管が破れる「脳出血やくも膜下出血」などがあり、その最大の原因は、高血圧です。高血圧が長く続くことで動脈硬化が進行し、脳の血管が詰まったり出血したりするのです。脳卒中は、早期に治療を開始することで(発症4〜5時間以内)後遺症が軽くなることがありますが、多くの場合、半身麻痺、言語障害、認知機能低下などが残ったり、寝たきりになる危険性の高い病気です。
脳卒中のうち6割を占めるのが、「脳梗塞」です。脳梗塞の中には、心臓の働きの悪さ(心臓のポンプ機能の異常)が原因で起こるものがあります。心臓内にできた血栓が血液の流れで脳に到達し、脳の血管を詰まらせることで起こる「心原性脳塞栓症」というタイプの脳梗塞です。心原性脳塞栓症は、前ぶれなく突然発症し、大きな血管が詰まる(梗塞範囲が広い)という特徴があり、脳梗塞の中でも命に関わる危険なものです。
特に、心房細動の人では心臓に血栓ができやすく、脳梗塞(心原性脳塞栓症)になる確率も高くなります2)。全脳梗塞のうち20〜30%が心房細動によるものともいわれています3)。脳血管の詰まりと心臓の働きとの間には関連性などないように思われがちですが、実際にはとても大きく深く関係しているのです。

心臓に十分な血液が行き渡らないことで起こる、危険な「心臓発作」

心臓の冠動脈が動脈硬化などで狭くなったり、血栓ができて詰まってしまい、心臓に十分な血液が行き渡らなくなることで引き起こされる病気が、「虚血性心疾患」です。
狭心症とは、冠動脈の血液の流れが悪くなり心臓が酸素欠乏に陥った状態で、胸をしめつけるような痛みが起こります。心筋梗塞とは、冠動脈が詰まって血流が止まり、心臓の一部が壊死して動かなくなる状態で、痛みが強く続くのが特徴です。狭心症も心筋梗塞も、ある時突然起こる心臓発作で、手当てが遅れると生命に関わることもある重大な病気です。
不整脈のある方では、心臓発作が心配な方も多いと思います。心疾患とは関係のない不整脈もありますが、心臓が痙攣したような状態になる一部の不整脈では、心筋梗塞と関係するものもあります。過去に軽い心筋梗塞などを起こしたことがある不整脈の方は、注意しましょう。

  • 1)Jonathan P Piccini, et al. Eur Heart J. 2014 35(4):250-6.
  • 2)日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会「脳卒中治療ガイドライン2015(追補2017対応)」
  • 3)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン「2020 年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」