vol.140 歩く速さが「寿命」や「健康寿命」に大きく関係しているってホント?

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有酸素運動であるウォーキングは健康にいい。当たり前のように聞こえる言葉ですが、実はそれを裏付けるだけでなく、寿命にも大きな影響を与えるという多くの研究結果が発表されています。さらには、“速く歩くことができる人”ほど健康寿命が長いという調査結果もあります。それはどうしてなのか、ご紹介します。

vol.140 歩く速さが「寿命」や「健康寿命」に大きく関係しているってホント?

速く歩くよう努力すれば、病気予防につながる

2010年、海外で発表されたある研究結果が注目を集めました。30~55歳 (研究開始時) の女性1万3535人に対して、調査開始時と9年後に歩行速度を調査し、その時の歩行速度と70歳になった時の健康状態の関連を調べたものです(※1)。歩行速度が時速3.2km未満のゆっくり歩きの人を「1」とした場合、時速3.2~4.8kmの普通のスピードで歩く人は「1.9」倍、時速4.8km以上のやや早歩きで歩くことができる人に至っては「2.68」倍、“サクセスフルエイジング達成率”が高かったという結果が発表されました。
サクセスフルエイジング達成率とは、がんや糖尿病心臓疾患や脳疾患などの大きな病気にかからずに、認知障害もなく健康な状態でいられる率のこと。つまり、速く歩くことができる人は、健康寿命が長いといえるのです。

また、共同生活をしている65歳以上の男女3万4485名を6~21年間追跡調査した海外のデータでも、歩行速度が速い人ほど生存率が高く、遅ければ生存率が低いことが示されています(※2)。65歳の男性を例にとると、秒速1.6m (時速5.76km) で歩行する人の平均寿命は95歳以上、秒速0.8m (時速2.88km) の人は約80歳なのに対して秒速0.2m (時速0.72km) の人の平均寿命は約74歳。この傾向は男女ともに共通しており、歩行速度と平均寿命は比例しているという結果が導き出されているのです。

また、歩くことで大腸がんを予防する効果があることも明らかにされています(※3)。「運動不足」のグループの大腸がんのリスクは、「平均運動量」のグループと比べると2倍以上、「積極的に運動」をするグループと比べると、リスクは約4倍になるというのです。歩くことで便秘状態が改善され、老廃物が腸内にとどまらないため大腸がんのリスクが低くなるということが、理由として考えられています。
さらには、1日30分以上、1週間で合計2時間以上の早歩きを行うと、善玉コレステロールが増えるという調査結果もあります(※4)。1週間に3~5時間歩く人は、1時間未満しか歩かない人に比べて、乳がんによる死亡率が50%低くなるという研究報告もされています(※5)。長時間の早歩きをすることは、健康で長生きをするために必要なものなのです。

  • (※1) Arch Intern Med.170(2):194-201,2010
  • (※2) JAMA.305(1):50-8,2011
  • (※3) 東京ガス(株)健康開発センター調べ。9677人を平均15年にわたってがんの種類と死亡率を比較検討した結果。
  • (※4) お茶の水女子大学調べ。 Arc Intern Med:2007;167(10):999-1008
  • (※5) ハーバード大学が3000人を平均8年にわたって追跡調査した結果。

歩く速さだけでなく歩幅もチェック!

人の筋肉は、運動をしないでいると20歳以降は1年に約1%ずつ衰えていくとされています。つまり30歳では、20歳の時の筋肉量の約90%、50歳では約70%となってしまうのです。
これを防ぐ一番簡単な方法は、歩くことです。歩くことで筋肉量の減少率を抑えることができるだけでなく、心肺機能を向上させたり、免疫力を高めたりできます。また、血液中の糖や脂肪をエネルギー源として使うことで、体脂肪や内臓脂肪を減らすことにもつながります。
また、脚には体の中でも大きな筋肉があります。脚の筋肉が収縮・伸長することで、周囲の血管も同時に収縮・伸長され、血液の流れを良化します。この筋肉のポンプ作用が「脚は第2の心臓」といわれる理由です。血流が良化すれば栄養が全身にいきわたり、代謝機能も活発になります。これにより、脂肪がたまって太ることも防げるのです。

では、どんな歩き方がいいのでしょうか。
それはやはり、有酸素運動特有の効果が得られる「早歩き」です。ゆっくりと歩いているだけでは、足を引き上げるのに必要な太ももの筋肉や体幹部が使われていないからです。中高年を過ぎてこれらの筋力が低下してしまうと、足が上がらなくなって転倒しやすくなったり、すり足になったりするケースがあります。そのため、今のうちから早歩きをする習慣を作ることが重要です。
ところで、不動産物件の表示でよく見かける「駅徒歩10分」というのは、分速80mの歩行速度で算出されています。時速に換算すると4.8km。これより速く歩けることが、1つの目安といえます。

また、歩く速さだけでなく歩幅も大事な要素です。チョコチョコと狭い歩幅で歩いているだけでは、あまり運動効果が現れないからです。

早歩きをするときの理想的な歩幅は、身長×0.45といわれています。
身長150cmの人の理想的歩幅は約67cm、155cmの人は約70cm、160cmの人は約72cm、170cmの人は約76cmということになります。普段の歩幅にあと10~15cm広げるつもりの、「やや大股」で歩くのがいいでしょう。

歩く速さや歩幅をチェックするには、通勤や買い物などでいつも同じ場所に行くときに、歩数と時間を確認するのがわかりやすい方法です。
毎朝、最寄り駅までの所要時間はどうなっていますか。数年前に比べて時間がかかっているようなら、筋肉量がダウンしたりするなどの理由で歩行速度が落ちていることが考えられます。また、所要時間があまり変わらなくても、歩数が増えている場合には注意が必要です。もちろん、歩幅が狭くなっているから歩数が増えてしまっているのです。歩く速さも歩幅も、意識するだけで改善できますから、今日からスタートしましょう。駅までの距離の全部を早歩きにするのではなく、途中に大股の早歩きを数分間入れるなど、体に無理のない程度からスタートするのが、長続きのコツといえます。
また「最寄りのお店でなく、ちょっと遠くの店に“自分の好物”がある」などといった目的を見つけることができれば、長い距離を歩くモチベーションにつながります。通勤ではあまり長い距離を歩かないという人は、趣味や好物などの目的を見つけ、そこまで積極的に歩くことから始めるのも1つの手です。

早歩きの効果はいっぱい!

早歩きによって、筋肉量の減少をできるだけ防ぐことには大きな意味があります。人間の総消費エネルギーのうち、基礎代謝は約70%を占めています。この基礎代謝は18歳前後を過ぎると減少していきますが、これは筋肉量が減少するからです。また、女性は男性より筋肉量が少なく、基礎代謝も低い傾向がみられます。妊娠や出産のために、男性より多くの体脂肪を蓄える必要があるからですが、そのまま放っておくと、燃焼しきれなかった脂肪が蓄積され続けてしまいます。

30分連続して歩いても、10分を3回に分けて歩いても、体脂肪量の減少率に関しては変わらないという結果が出ています。つまり、運動は連続して行っても小分けにしても、体脂肪量を減らすのには影響がないということです。それでも同じ30分歩くとしたら、大股で早歩きをするのと、ゆっくり小股で歩くのと、どちらが運動量が多いかは一目瞭然。ダイエット効果を求めるなら、大股の早歩きを選びましょう。体脂肪を減らすことで、さまざまな生活習慣病のリスクを減らすことにつながるからです。

また、歩かないことで、心臓疾患のリスクが増大します。これは糖尿病でも同様です。糖分の約70%は筋肉で消費できます。だから糖尿病患者でも、運動をしていればインスリンが不要になるほどです。ちなみに宇宙飛行士は、無重力空間で筋肉を使っていないため、2週間宇宙に滞在するだけで糖尿病になってしまうほどです。
運動をすることで、脳由来神経栄養因子が増大することも明らかになっています。120名の高齢者に歩行などの有酸素運動をさせたところ、脳の海馬前部のサイズが増加し、空間記憶の改善をもたらしたという研究結果もあります。運動によって、加齢に伴う海馬容積の減少を食い止めるだけでなく、増やせるということが明らかにされているのです。高齢者でも海馬容積を増やすことができるのですから、若いうちから運動を心がけることで、さらにいい結果が得られることは間違いありません。

歩く姿勢はとても重要

早歩きをする場合、正しい姿勢になっているかどうかをチェックすることが重要です。

・背骨が正しいS字カーブを描いているか。
・肩、骨盤それぞれの高さが左右同じか。
・膝と足先が同じように前を向いているか。

姿勢ではこの3点がポイントですが、何より簡単なチェック方法が、まっすぐ立って自分の足元を見ることです。お腹や胸が邪魔をして足の甲が見えない場合は、姿勢を改善する必要があります。1時間程度歩いた後で立ち止まり、足の甲がちゃんと見えるかどうかをチェックするのが一番いい方法です。また、身につけて歩くだけで、歩行姿勢をチェックすることができる商品も登場しています。

次に注意したいのが、
・顔は正面を向く。
・猫背にならないようにする。

この2点に関しては、歩いているときに、自分の姿を映しているウインドーなどがあったら確認してみましょう。

早歩きをするときには、
・腕を「前後に平行に」「やや後ろに」振る。

この1点を意識しましょう。腕を前に振り出すことは簡単ですが、後ろにはあまり振っていない場合がほとんどです。腕を後ろに振ることを重視すると、驚くほど重心が前に移動しやすくなり、歩行速度もアップします。腕を横に振ってしまうと体のひねりを作り出してしまい、骨盤の安定性を欠くことになりますから、ぜひ修正してください。

早歩きをすれば、普段より運動量が高くなります。熱や体の痛みがある場合には、体調が整ってから歩きましょう。動悸や息切れがある場合も同様です。また、睡眠不足だったり、疲労がたまっていたりする場合にも、無理をしないよう注意しましょう。
こまめに水分補給をすることも忘れずに。コーヒーなどは利尿作用があるため、水分補給には向きません。ミネラルウォーターなどを選ぶようにしましょう。

シューズ選びにも気を遣いましょう。多くの日本人の足首は着地時に内側に倒れやすいため、安定性のあるシューズを選ぶことが重要です。クッション性に優れていても、安定性がないと足首や膝、腰に負担がかかってしまいます。“歩くため”に開発されたウォーキングシューズこそ、早歩きにマッチする相棒です。

歩く速さと歩幅を少しアップさせるだけで、10年後どころか30年後の健康状態を良好なものに変えることができます。今日からでも始められる早歩き、ぜひトライしてみてください。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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