vol.51 「すい炎」の予防は食生活の改善で

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すい炎を知っていますか

お酒をたくさん飲んだり、揚げ物など脂肪分の多い食事をしたあと、みぞおちの辺りが痛くなったら…それは、すい炎を起こしている可能性があります。 突然起こる「急性すい炎」の場合は、うずくまってしまうほどの激痛になることもあります。痛みはみぞおちからわき腹、背中に達し、吐き気や発熱に加え、呼吸困難などのショック症状を起こすこともあります。
もしそんな症状がみられたら、すぐに救急車を呼んで病院へ行くようにしましょう。重症の急性すい炎の場合、ほかの臓器へのダメージも大きく、死亡率が20%程度もあり、緊急の治療が必要だからです。

また、痛みはそれほど強くなくても、飲食後にみぞおち付近の痛みを繰り返すときは、「慢性すい炎」の可能性があります。慢性すい炎は、少したつと痛みが治まることも多く、受診せずに放置しがちです。しかし、進行するとすい臓の組織が破壊され、糖尿病など重大な病気を引き起こします。
最近、こうしたすい炎の患者が急増しています(※1)。ところがすい炎についてはまだ認知度が低く、手遅れになったり、悪化させてしまうケースが少なくありません。
そこでまず、すい炎とはどんな病気なのか、また原因や対処法などを知っておくことが大切です。

(※1)急性すい炎の患者は20年前と比較して、約2.3倍にも増加しています。また慢性すい炎は、毎年4万5000人程度が受診していますが、軽症の場合には放置している例が非常に多いと推定されています(厚生労働省「難治性膵炎調査研究班のデータ」などより)。

vol.51 「すい炎」の予防は食生活の改善で

すい炎ってどんな病気?

すい炎は、文字どおりすい臓(膵臓)に起こる炎症ですが、そもそもすい臓がどこにあるのか、ご存じでしょうか。すい臓は、胃のちょうど裏側にある小さな臓器です。
すい臓の働きといえば、血糖値をコントロールするインスリンを分泌することは、よく知られています。でもそれだけでなく、すい液という消化酵素を分泌し、3大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)の消化分解という重要な働きを行っています。
すい液は強力な消化作用をもっていますが、健康な人の場合にはすい臓自体には影響を及ぼしません(※2)。ところが何らかの理由ですい液の分泌に異常が生じると、すい臓そのものを消化(自己消化)してしまい、炎症を起こします。それがすい炎です。

すい炎が増えている背景には、飲酒量の増加や食生活の洋風化、それに胆石などが指摘されています。
例えば急性すい炎の最大の原因は、アルコールの飲みすぎです。アルコールを大量に飲むと、すい液の分泌がとても活発になります。そうするとすい液がすい臓にあふれ、自己消化を起こし、すい臓を傷つけることになります。男性の急性すい炎では、アルコール性のタイプが半数以上を占めています。
一方、肉類や揚げ物類などをたくさん食べた後に、急性すい炎を起こすこともあります。これは、脂肪分を大量にとったことが原因と考えられています。
また女性には、胆石が原因の急性すい炎もみられます。胆石は、やはり脂肪分の多い食事のとりすぎなどによって、胆汁が石のように固まったものです。その胆石がすい臓の出口をふさぐことで、すい炎を発症します。

(※2)健康な人のすい臓の中では、消化酵素はまだ消化力を発揮しない形で存在するので、自己消化を起こしません。消化酵素は、十二指腸などに流れ出てほかの酵素と反応することで、本格的な消化活動を始めるようになります。

気を付けたい慢性すい炎

急性すい炎の場合は、激痛を起こすことが多いので、すぐに受診して治療を受けることになります。
その一方で、慢性すい炎の場合は軽症のうちは痛みも少なく、しばらくすると治まってしまいます。みぞおち付近の痛みは、胃痛や胸の痛みとも間違えやすいため、受診せずに市販の胃腸薬や鎮痛薬などで対処していて、慢性化させてしまうケースが多いのです。
そんなことを繰り返すうちに、やがて痛みが軽くなったり、消えてしまうことがあります。自然に治ったと思いがちなのですが、実はそうではありません。
すい臓がダメージを受け続けた結果、すい液の分泌量が減ってしまうため、痛みも少なくなるのです。
これは慢性すい炎に特徴的な「移行期」と呼ばれる段階で、実際にはすい臓の機能がかなり悪化していることを示しています。すい臓の組織は一度こわれると、元には戻りません。すい臓の機能不全を起こすと、まず食べ物を消化しにくくなります。典型的な症状は、下痢や脂肪便が続くことです。脂肪便というのは、消化されない脂肪が便と一緒にドロドロの状態で排出されるものです。
また、インスリンの分泌が低下するため、血糖のコントロールができなくなり、糖尿病を発症しやすくなります。
それだけにできるだけ初期の、少し痛みを感じる段階で、早めに受診することが大切です。

予防の基本(1) 飲酒習慣を見直す

すい炎のなかでも、日々の生活習慣と関係が深いのは慢性すい炎です。そこでここでは慢性すい炎を中心に、症状の改善や予防法についてご紹介します。
慢性すい炎の最大のリスクは、長期間にわたるアルコールの過剰摂取です(※3)。アルコールの影響というと、肝臓障害をまず連想する人が多いでしょう。それに対して慢性すい炎は、発症までの期間が比較的長いため、目立ちにくい面があります。
ではどれくらいアルコールを摂取すると、慢性すい炎のリスクが高くなるのでしょうか。一般的にはビール大瓶3本(日本酒なら約3合、ワインならボトル1 本、焼酎なら2合程度)に相当するアルコールをほぼ毎日飲み続けると、10~15年で発症する可能性が高いとされています。
「それほどたくさん飲んでいない」…と安心する人もいるかもしれませんが、次のような別のデータもあります。実際に慢性すい炎になった患者さんたちの飲酒習慣を調査した結果によると、「週に3日以上、1回1合以上」のアルコールを飲んでいたという人が、実に76%を占めています(※4)。体質などの個人差はありますが、この程度の飲酒ペースと量であっても、慢性すい炎のリスクが高まるのです。とくに男性の患者では4分の3がアルコール性の慢性すい炎であり、日常的にアルコールを飲む習慣が大きな要因となっています。
急性にせよ慢性にせよ、すい炎になると、医師からアルコールを飲むことを禁じられます。そうなる前に飲酒のペースと量を見直し、みぞおちなどに痛みを感じることがあったら、早めに受診することが大切です。

(※3)欧米諸国ではアルコール摂取量が減少傾向にあるのに対し、日本ではこの数十年間ずっと増加傾向にあり、現在でも微増か横ばい状態です。とくに1日当たり日本酒換算で1合以上飲む多量飲酒者は、 300万人以上いると推定されています(厚生労働省『国民健康・栄養調査』などより)。

(※4)厚生労働省「難治性膵疾患調査研究班による調査資料」(2002年)による。日本酒1合のアルコール量はビール大瓶1本、ワイングラス2杯程度に相当します。

予防の基本(2) 胆石や食生活にも注意を

胆石・すい石(すい臓にできるカルシウムを含む石)や、脂肪分の多い食事も、慢性すい炎の原因になります。
胆石やすい石が詰まってすい炎が起こっている場合には、その除去手術が必要となります。石の位置などを検査で確認してから、腹腔鏡や内視鏡による手術、あるいは体外から衝撃波を与えて石を砕く方法などで、除去をします(胆のうに石がある場合は、胆のうごと切除する方法もとられます)。医師の説明をよく聞いたうえで、除去方法を選択しましょう。
一方、原因がよくわからない特発性のすい炎も少なくありません。そのなかには、食べすぎた後や脂っこい食事をした後、しばらくして痛みが起こるケースがよくみられます。ケーキなど脂肪分の多いデザートが引き金になることもあります。

食後に痛みを繰り返す場合には、食事の量や方法を見直すことが大切です。1回ごとの食事の量を減らし、1日4~5回に分けて食べるようにします。また、揚げ物や炒め物、脂肪分の多いデザート類はできるだけ減らし、低脂肪食を中心としたメニューに切り替え、すい臓への負担を軽くしてやるようにしましょう。
慢性すい炎は一度発症すると、長期の治療を必要とします。病院でもらった薬などで一時的に症状が治まっても、放置すると再発を繰り返します。アルコールや食事の自己管理も含め、医師ともよく相談しながら、きちんと治療を行いましょう。

ミニコラム

すい炎とすい臓がん

すい臓の病気というと、すい臓がんを心配する人もいるかもしれません。すい臓がんの場合は、急性すい炎のような激痛は少なく、みぞおちや背中付近の重苦しさ、鈍痛などの症状が一般的です。また、すい臓がんの中でも症例が多いすい頭部のがんでは、黄疸が出やすくなります。さらにインスリンの分泌が悪化するため、糖尿病を発症することも多く、その検査の過程ですい臓がんが発見されることもあります。すい臓がんは、この30年間で死亡者数が4倍にも増えているので、前記のような症状が続くときは検査を受けましょう。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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