vol.133 早期発見・早期対応が「認知症」の転ばぬ先の杖

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Vol.133 早期発見・早期対応が「認知症」の転ばぬ先の杖

急速な高齢化の進行とともに、今後急増することが予想される認知症。厚生労働省の調査によると、65歳以上の認知症有病者数は約462万人。認知症の前段階である「軽度認知障害」(MCI:Mild Cognitive Impairment)は、約400万人と推計されています。認知症の根治療法は、まだわかっていないのが現状ですが、早期から適切な治療やケアをすることで生活機能が維持されたり、介護の負担が軽減されたりすることがわかっています。医療の現場でも具体的な取り組みが始まっています。

早期のケアで改善する認知症の「BPSD」

今年5月、神奈川県川崎市に認知症の専門病院が開院しました。従来の精神科の病棟は40~50床ですが、この「かわさき記念病院」病院では、病棟を3つのユニット形式に分けた「小規模ケア」を実践しています。このような少人数単位のケアは、医療機関ではほとんど取り入れられていません。同病院の精神科診療部長の高橋正彦医師は、「16~18床の小規模にすると職員も落ち着いてケアできます。認知症の人は、ちょっとした環境の変化に不安を感じます。環境が悪いと不信や拒否が起こり、結果として薬物で鎮静させることになります。これは不適切なケア。ここではBPSDを早期に治療し、自宅に帰ることを目標にします」と話します。
BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)とは、「認知症に伴う行動・心理症状」を表す略語。認知症の周辺症状である徘徊、暴言、暴力、攻撃性、不安、焦燥、抑うつ、妄想、幻覚、夜間の異常行動、食行動の異常などを示します。認知症の人が精神科に入院するのは、多くの場合、「大声で叫ぶ」、「夜中に歩きまわる」、「暴言や暴力をふるう」など、症状が進んで手におえなくなったときです。しかし、そうなる前に適切なケアをするとBPSDの症状は改善し、認知症の進行予防にも効果があるとされています。BPSDが長期に及ぶと本人の生活能力も失われるため、早期の短期集中的な治療に期待が集まっています。

認知症の発症は、社会的な要因も影響する

認知症は単なる老化現象ではなく、脳の変性によって起こる病気です。気になるのは、発症するのかしないのか、発症するとしたらいつなのか、ということではないでしょうか。「退職したとたん認知症になった」、「施設に入ったら認知症が進んだ」という話をよく聞きます。これは脳の神経細胞が急に壊れたわけではなく、在職中や施設に入る前から脳の変性が進んでいたと考えられます。
認知症の中で最も多いアルツハイマー病では、発症の20~30年前から脳の神経細胞の低下が始まります。40~50歳代は、脳の神経細胞が働きを補うため症状が出ることはありませんが、脳の予備能力が低下してくると物忘れなど軽度認知障害の症状が現れ、認知症へと移行していきます。ただし、軽度認知障害から次のステージである認知症に至るのは、その人が置かれている社会的な状況によって、遅くも、早くもなる、と高橋医師は指摘します。
たとえば、退職後、毎日が日曜日のようになり、することが何もないという生活を送っていると意欲の低下が起こりやすくなりますが、退職後も予定があり、毎朝決まった時間に起きる生活をしている人は、認知レベルが高く保たれます。ひとり暮らしか家族と同居しているかによっても、認知機能の維持には違いが見られるといいます。「認知症は脳の変性で起こるため、少しずつ進行します。しかし、本人の意欲や生活能力を引き出す環境が、発症を遅らせるのではないでしょうか。また、認知症への境界領域に入ると意欲が低下し、人の集まりに行きたがらなくなります。これは極めて不健康な状態。精神のバランスを保つには、家族以外の多様な人の中に所属している感覚や仲間意識がとても重要です」と、高橋医師はアドバイスします。

アルツハイマー病は、初期の異変に気をつけよう

軽度認知障害は、正常と認知症のちょうど中間。「軽い物忘れ」や「注意力の低下」など自覚症状はあっても、日常生活や社会生活に支障がない時期とされています。しかし、認知症に進むかどうかの境目であり、アルツハイマー病の初期とも重なるため、注意したい時期です。
65歳未満の若年性のアルツハイマー病は、働き盛りに発症します。職場では複数の仕事を同時に進行するような場面があり、高い認知機能が求められます。そのため、アルツハイマー病の初期は、家族より職場の同僚や上司が気づくことが多いといわれています。物忘れのほかに、「趣味や社会的な活動に興味がなくなった」、「すぐにイライラして怒りっぽくなった」など、以前はなかった異変に気づいたら、早めに受診することです。アルツハイマー病は、薬で進行を遅らせることができるので、現状では早期発見・早期治療がなにより大切です。どこで診察を受けたらいいのかわからないときは、地域包括支援センターで軽度認知障害や認知症を含めて相談できる医療機関を聞いてみることをおすすめします。

監修 かわさき記念病院 精神科診療部長 高橋正彦先生

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