脂質異常症の新しい診断基準

日本動脈硬化学会による脂質異常症の診断基準が2012年に改訂され、次のようになりました。

脂質異常症の診断基準(空腹時採血による数値)

コレステロール 数値
高LDLコレステロール血症 LDLコレステロール値 140㎎ ⁄ dl以上
境界域高LDLコレステロール血症 LDLコレステロール値 120~139㎎ ⁄ dl以上
低HDLコレステロール血症 HDLコレステロール値 40㎎ ⁄ dl未満
高トリグリセライド(中性脂肪)血症 トリグリセライド値 150㎎ ⁄ dl以上

(日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」2012年版より)

2006年までの診断基準の指標は「総コレステロール値(220mg ⁄ dl以上)」でしたが、それだけでは悪玉(LDL)と善玉(HDL)の違いが判断できませんでした。たとえば善玉(HDL)コレステロールが多いことは良いことなのですが、その場合でも総コレステロール値が高くなるため、脂質異常症と診断される可能性があったのです。
そこで新しい診断基準では、「悪玉(LDL)コレステロールが多い場合」、「善玉(HDL)コレステロールが少ない場合」、「中性脂肪が多い場合」という3つのタイプを明確にし、いずれも脂質異常であることをはっきりさせたといえます。
また、さまざまなリスクの高さに応じて判断できるように、「境界域」を悪玉コレステロールに設け、治療に対応できるようにしています。

危険因子が多いと高リスクに

診断基準にある数値が基本となりますが、悪玉(LDL)コレステロール値については、ほかに危険因子がある場合には、さらに厳しい数値(管理目標値)が設定され、治療方針が決定されます。
危険因子というのは、年齢や喫煙習慣の有無、高血圧や糖尿病があるかどうか、家族の病歴はどうか…といった要因です。
たとえば肥満などが原因で高血圧や糖尿病などを併発している場合(メタボリックシンドローム)や、家族に心筋梗塞や狭心症などの病歴がある場合などには、リスクが高いと判断されます。この場合には悪玉(LDL)コレステロール値を、リスクに応じて100~120mg ⁄ dl以下におさえるなど、治療目標が厳しくなります。
反対に、危険因子がない場合には、悪玉(LDL)コレステロール値が少し高めでもリスクが低いと判断され、食事などの生活指導を中心とした治療がおこなわれます。
実際の治療方針は患者さんごとのリスクを細かく考慮しながら医師が判断しますので、よく話を聞くようにしましょう。

「LH比」も目安に

最近、診断の目安として「LH比」も重視されています。LH比とは、「LDLコレステロール値÷HDLコレステロール値」のこと。たとえばLDLコレステロール値135mg ⁄ dl、HDLコレステロール値45mg ⁄ dlの場合、「135÷45=3」でLH比は3.0となります。
LDLコレステロール値が正常であっても、HDLコレステロール値が低いと心筋梗塞を起こす例が多いため、予防には両方のバランスを示す数値(LH比)が参考となります。LH比が2.5以上だと動脈硬化や血栓のリスクが高いため、「ほかの病気がない場合は2.0以下に」、「高血圧や糖尿病がある場合、あるいは心筋梗塞などの病歴がある場合には1.5以下に」を目安とする病院が増えています。

ワンポイントアドバイス

新しい診断基準によって、従来は総コレステロール値が高いために脂質異常症とされた人のなかに、「正常」となる人が増えてきます。たとえば女性は更年期以降、総コレステロール値が高くなりやすいため、脂質異常症とされるケースが少なくありませんでした。しかし女性は一般に善玉(HDL)コレステロール値が高く、それだけ心筋梗塞などのリスクが低いことがわかってきています。男性の場合にも、善玉(HDL)コレステロール値が高い人には同様のことがいえるため、今後は総コレステロール値だけでなく、悪玉と善玉についてもきちんと検査することが大切となってきます。