対策・治療

膝の再生医療 - 期待できる効果と注意点

膝の再生医療の主な治療対象は、変形性膝関節症です。変形性膝関節症では、初期には薬物療法やヒアルロン酸注射といった保存療法を行い、これらで効果が得られなくなったり症状の悪化が見られたりすると、手術療法を検討することが一般的です。再生医療は、この保存療法と手術療法の間を埋める「第3の治療法」として注目されています。治療しているけどなかなか良くならない、手術を勧められているけれど、できれば避けたい。こうした方々に行われていて、一定の成果を上げています。今回は、現在実用化されている膝の再生医療について解説します。

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目次
膝の再生医療の種類
再生医療の関連技術「PRP-FD」
再生医療を受ける際の注意点

膝の再生医療の種類

現在、膝関節治療で実用化されている3つの治療法についてご紹介します。

1. 幹細胞治療

幹細胞は体内のさまざまな細胞から採取することができ、他の細胞に変化する能力を持つことから、そのいくつかは再生医療への転用が模索されています。現時点で最も手軽に採取できて実用化に適した素材として注目されているのが、脂肪細胞に含まれる幹細胞(脂肪由来幹細胞)です。膝の再生医療では、この脂肪由来幹細胞を用います。

対象となる疾患

変形性膝関節症が対象になります。

治療方法

お腹や太ももなどから脂肪細胞を採取し、そこから抽出した幹細胞を膝の患部に注射します。
脂肪由来幹細胞を用いた治療には、幹細胞を培養するものと、培養しないものがあります。どちらの方法で治療をしているかは、医療機関によって異なります。

期待できる効果

これまでの治療成績から、膝の痛みの改善と、それに伴った日常生活動作の改善などが期待できます。またこの治療は、比較的軽度な方において効果が得られやすいということがわかっています*1-3

2. PRP療法

患者さんの血液から多血小板血漿(=PRP)という血小板を多く含む液体成分を取り出し、それを膝の患部に注射する治療法です。血小板から分泌される成長因子という物質の働きを利用します。成長因子には、組織の修復を促す働きがあります。これによって組織の自己修復作用や抗炎症作用を高め、患部の早期治癒を後押しします。

対象となる疾患

変形性膝関節症の他、スポーツ選手のケガの治療にも用いられます。(プロ野球選手の治療に用いられて、一気に知られるようになりました)

治療方法

患者さんの血液を30mLほど採血し、専用のキットを用いて遠心分離機にかけます。ここから血小板が豊富に含まれる多血小板血漿(PRP)だけを抽出し、膝関節内に注射します。

期待できる効果

PRPから放出される成長因子の働きによって自己修復作用が高められます。その結果、靭帯や腱の損傷に関しては、回復を早める効果が期待できます。一方、変形性膝関節症に対しては、痛みの緩和や関節機能の改善作用が期待できます。

3. 自家培養軟骨移植術

膝関節は血流が少ないため、軟骨が損傷しても自然治癒が難しい環境にあります。そのため、ひとたび軟骨が欠損してしまうと、これを自力で回復させるのは困難だと考えられてきました。
そこで注目されているのが、軟骨の移植手術です。患者さんから採取した健康な軟骨を体外で培養し、欠損部に移植します。

対象となる疾患

外傷性軟骨欠損症と離断性骨軟骨炎です。

治療方法

患者さんの健康な軟骨細胞を体外で増殖してから欠損部に移植するという治療法です。軟骨は関節鏡手術で採取します。大きな切開もなく、手術は40分程度で終了します。この軟骨を培養して患部に移植するのですが、移植手術の際は大きく切開するので2時間ほどの手術となります。術後1週間ほどで筋トレを開始して、1ヵ月後に退院という流れが一般的です。

治療効果/実績

6年間の追跡調査を経ても問題となるような症状は確認されておらず、痛みと関節機能の改善が認められました*4

再生医療の関連技術「PRP-FD」

PRP-FDは、再生医療ではないものの、再生医療のPRP療法を応用した治療法です。変形性膝関節症への投与が主ですが、そのほかのさまざまな治療にも用いられ始めています。

概要

PRP同様、まず血液を遠心分離し、血小板を濃縮させた液体(多血小板血漿)を作成します。これに血小板中の成長因子を活性化させる処置を施し、フリーズドライ(FD)加工したものがPRP-FDです。投与する際は、これを生理食塩水に溶かして使用します。

対象となる疾患

変形性膝関節症への投与が大半ですが、半月板損傷、変形性股関節症、テニス肘、ゴルフ肘、肩や足首・手首の炎症などさまざまな疾患の治療に用いられます。

効果/治療実績

PRP-FDを関節内に注射することで関節内の炎症が緩和され、それに伴って痛みや腫れが軽減する効果が期待できます。
また最近の研究では、軟骨体積の増加に影響を及ぼしたことも報告されています*5。このことから、自覚症状だけでなく、客観的な評価においても改善が期待されます。

再生医療を受ける際の注意点

膝の再生医療をご検討いただく際は、以下の点にご留意ください。

リスクについて

再生医療は、患者さん自身の組織を用いる治療です。理論上、拒絶反応などのリスクは少ないと考えられます。ただし、医療行為である以上、リスクがゼロとは言い切れず、脂肪塞栓症(血中に脂肪が混入し血管がつまる)や感染、神経や血管が損傷するリスクも可能性としては考えられます。

そのほかの注意点

再生医療は、自由診療なので自己負担額が高額になります。また、治療の反応性が人によって大きく異なります。治療を受けたのに効果がないということもないわけではありません。このため、多くの医療機関では治療前にMRI検査を実施して、再生医療の効果が期待できるかどうかを事前に確認しています。どなたにも等しく効果が期待できるものではないので、事前のカウンセリングを踏まえてよく検討することが大切です。

治療前にはMRI検査を行い、効果が期待できるかどうかを医師の見立てに基づいて確認しましょう。

参考)
*1 Yokota N, Hattori M, Ohtsuru T, et al. Comparative Clinical Outcomes After Intra-articular Injection With Adipose-Derived Cultured Stem Cells or Noncultured Stromal Vascular Fraction for the Treatment of Knee Osteoarthritis. Am J Sports Med 2019: 47: 2577-2583.
*2 Yokota, N, Yamakawa, M, Shirata, T, et al. Clinical results following intra-articular injection of adipose-derived stromal vascular fraction cells in patients with osteoarthritis of the knee. Regen Ther 2017: 6 : 108-112.
*3 大鶴任彦,横田直正,尾辻正樹,ほか. 変形性膝関節症に対するBiologic healing専門クリニックの実際とエビデンス構築. 関節外科 2020:39:945-954.
*4 Takazawa K, Adachi N, Deie M, et al. Evaluation of magnetic resonance imaging and clinical outcome after tissue-engineered cartilage implantation: prospective 6-year follow-up study. J Orthop Sci. 2012: 17: 413-424.
*5 大鶴任彦,前川祐志,尾辻正樹,ほか. 変形性膝関節症に対するバイオセラピーにおけるSYNAPSE VINCENTを用いた関節軟骨評価. 関節外科 2022:41:545-549.
監修:
ひざ関節症クリニック 尾辻正樹(横浜院 院長)
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対策・治療

変形性膝関節症の治し方 - 運動および薬、手術による治療法

変形性膝関節症は、膝の関節にある軟骨が少しずつすり減って、骨が変形してしまう中高年に多い病気です。膝を動かすと痛みが生じたり、曲げ伸ばしが難しくなったりして、最終的には歩くのも困難になります。変形性膝関節症は少しずつ進行するので、早めに治療を始めましょう。
変形性膝関節症の治療法には大きく分けて、手術をせずに運動や薬で症状を緩和させる保存療法と手術療法の2種類があります。まず取り組みたいのが、保存療法にあたる運動療法とつらい痛みへの対症療法の基本となる薬物療法です。保存療法を2〜3ヵ月続けても効果がなく、さらに膝の痛みや変形が悪化している場合は、手術療法が行われます。ここでは、運動療法・薬物療法・手術療法についてご紹介します。

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変形性膝関節症の予防に効果的なウォーキング・してはいけない歩き方

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