痛みの悪循環が起こる原因とそのリスク
痛みがあっても「これくらいなら心配ないだろう」と放置していませんか? 適切な処置をとらないと痛みの悪循環に陥ってしまい、慢性化につながる可能性があります。痛みを我慢するのは禁物です。できるだけ早い段階で対処し、悪循環を断ち切りましょう。
痛みの悪循環とは?なぜ起こるのか?
たとえば、軽い火傷を負ったとします。冷水や氷嚢(ひょうのう)で冷やしたり、塗り薬や貼り薬を使ったりすれば、数日で痛みは治まることが多いのではないでしょうか。しかし、火傷がひどい場合や適切な治療が行われていない場合は、痛みがずっと残って、何ヵ月も症状が長引くことがあります。
このように痛みがひどかったり、対処の仕方に問題があったりすると、痛みの悪化や慢性化を招く恐れがあるので注意が必要です。
痛みが生じると、交感神経が優位になって、呼吸数・心拍数の増加、発汗作用、血圧上昇、筋肉の緊張などの緊急反応が起こります。すると、血流が悪くなり、血液を通して届けられるはずの酸素や栄養が行き渡らなくなるため、組織が酸欠状態に陥ります。その結果、痛みを生み出す発痛物質が放出され、痛みが増強されてしまうのです。その痛みによって、再び交感神経の興奮が起こり、同じ現象を繰り返すことに。こうした負のスパイラルを「痛みの悪循環」といいます。痛みの悪循環に陥ると、痛みを引き起こしたもともとの原因がなくなっても、いつまでも痛みが残ってしまいます。さらに、痛みによるストレスや不安などの心理的要因が加わると、痛みが慢性化する可能性があります。
痛みの悪循環が神経の可塑化につながる
痛みが長期化した場合、神経そのものにも変化が起こります。神経には、同じ刺激が繰り返し与えられると、それを学習して、少しの刺激でも敏感にキャッチできるようになる働きがあります。このような変化を可塑化(かそか)といいます。この可塑化のプロセスは、痛みを伝達する過程においても例外ではありません。痛みの感知とその伝達に関わる神経細胞(ニューロン)が可塑化してしまうと、軽い刺激でも痛みを感じ取り、治りにくくなってしまいます。
日本には「我慢は美徳」という価値観がありますが、痛みを我慢しても得になることはひとつもありません。痛みを感じたら、なるべく早く適切な治療を受け、慢性化や重症化を防ぎましょう。
- 参考)
- 橋口さおり『運動・からだ図解 痛み・鎮痛のしくみ』マイナビ出版
- 監修:
- 京都大学大学院医学研究科 青山朋樹教授
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